最高裁、国家警備隊を国防省の指揮下に置く法改正を違憲と裁定

(メキシコ)

メキシコ発

2023年04月20日

メキシコの最高裁判所(SCJN)は4月18日、2022年9月9日付官報で公布された、国家警備隊を国防省の指揮下に置く目的の一連の法改正(2022年9月13日記事参照)は違憲との憲法判断を下した(注1)。同法改正については、野党の上院議員団が憲法訴訟を提訴していたもの。国家警備隊の指揮権を治安市民保護省(SSPC)から国防省(SEDENA)に移転することは、憲法第21条が国家警備隊を「文民統制による警察組織」と定義していることに明らかに反し、その配備や行動の決定、計画や企画は治安をつかさどるSSPCに帰属すると最高裁は結論付けた。併せて、最高裁は国家警備隊の司令官の任命権もSSPCにあるとしたほか、国軍から配属された国家警備隊隊員を裁判などにおいて軍人と同様に扱う特権なども否定した(SCJNプレスリリース4月18日外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は4月19日、同違憲判決を受けて、「最高裁の判事は3人を除き、徒党を組んで法的基準ではなく政治的判断に従い、共謀と犯罪組織やホワイトカラーへの権力の従属に特徴づけられる権威主義的で腐敗した旧体制を擁護した」と強く批判した。その上で、AMLO大統領は、2024年9月から始まる2024年総選挙後の新しい国会において、与党連合が3分の2以上の議席を獲得することを想定し、国家警備隊を軍の指揮下に置く、新たな憲法改正案を大統領の最後の優先法案(注2)として提出する考えを示した(大統領府2023年4月19日付記者会見録外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

経営者連合会は司法の独立を評価

メキシコ経営者連合会は4月18日付公式ツイッターで、行政府や与党の司法への度重なる圧力に屈せず、国家警備隊のSEDENAへの従属を違憲と判断した裁判官を評価するコメントを出した。「法の支配と法律の尊重は全ての者にとって平和と正義を保障するものだ」としている。

今回、最高裁の大法廷で違憲の判断を下した8人のうち2人(元メキシコ市高等管区裁判所判事のフアン・ルイス・ゴンサレス・アルカンタラ氏と元国税庁長官のマルガリータ・リオス・ファルハ氏)は、2018年12月以降にAMLO大統領が指名した判事だ。AMLO大統領が指名した最高裁判事は11人中4人いるため、憲法訴訟において違憲裁定が確定する8人の賛成を得るのは困難だとみられた時期もあったが、司法の独立が保たれている現実は、法的不安定性が増す現政権下において、投資家にとっての安心材料として機能している、と評価する識者が多い。

(注1)11人の判事のうち、8人が違憲、3人が合憲としたが、違憲裁定は11人中8人が賛成すれば成立する。

(注2)AMLO大統領の任期は2024年9月末であるため、2024年6月に予定されている上下両院全議席を改選する総選挙後に初めて開会される新国会の会期(2024年9~12月)においては、最初の1カ月だけ大統領を務めることになる。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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