国家警備隊を国防省の指揮下に置く法改正を施行、憲法違反との声も

(メキシコ)

メキシコ発

2022年09月13日

メキシコ政府は9月9日夕刻の連邦官報において、連邦行政組織法、国家警備隊法、陸空軍組織法、陸空軍昇進報酬法の改正令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布し、翌日に施行した。一連の法改正は、治安維持活動の強化のため、国家警備隊(2019年3月15日付け記事参照)の実質的な管理運営を、治安市民保護省(SSPC)から国防省(SEDENA)に移管するもの。司令官の指名権(任命は大統領による)も含め、国家警備隊の管理運営は、財務など一部の機能を除き、陸空軍をつかさどる国防相の指揮監督下に置かれる。同改正案は政府が9月1日に国会に提出し、与党連合の賛成多数で9月3日に連邦下院、9月9日未明に上院を通過していた。

2019年3月末に公布された国家警備隊創設に関する憲法改正令に基づき、国家警備隊は連邦警察、陸空軍、海軍の構成員で構成されたが、憲法21条は国家警備隊を「文民統制による警察組織」と定義し、「国家治安戦略を策定する治安管轄省の傘下に置く」と定めている。今回改正された連邦行政組織法では、国家治安戦略の策定権限はSSPCにあると定めているが(第30-BIS条第I項)、国家警備隊の管理運営権はSEDENAに付与しており(第29条IV項)、憲法違反と指摘されている。今回の一連の法改正に反対した野党連合の議員団は、最高裁に憲法訴訟を提訴する構えをみせている(「エクスパンシオン」誌インターネット版9月9日)。

与野党双方で内部に亀裂も

一連の法改正案が国会で審議される過程において、与野党双方の内部で意見の相違がみられ、2024年の大統領選挙を視野に入れた動きが始まる中で、与野党内部に亀裂が生じ始めている。与党・国家再生運動(Morena)の上院院内総務を務め、2024年の大統領選挙への立候補を目指す有力政治家のリカルド・モンレアル氏は、憲法改正を伴わない国家警備隊のSEDENAへの指揮権移譲は立法府として受け入れられない、との立場を以前から表明しており、実際の投票でも棄権票を投じた。モンレアル氏が棄権票を投じたことについては、他の与党議員から批判が出たけでなく、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領も9月9日の早朝記者会見で、同議員は「偽りと偽善に満ちた保守主義者の汚職政治に加担している」と酷評している。

他方、野党連合にも亀裂が生じつつある。国民行動党(PAN)、制度的革命党(PRI)、民主共和党(PRD)から成る野党連合は今回の法改正に反対票を投じたが、PRIの下院議員団の中には治安維持に軍隊の力を借りることは必要という意見もある。ジョランダ・デ・ラ・トーレPRI下院議員は9月2日、2019年3月末の憲法改正令の付則第5条が定める、大統領が治安維持活動で軍隊を活用できる期限について、従来の5年間(2024年3月27日まで)から9年間(2028年同日まで)に延長する法案を国会に提出した。同法案にはPANやPRDから強い反対が表明され、両党首が9月7日、PRIとの間の同盟を一時停止すると発表するに至った。2023年6月には、全国最多の有権者を有し、PRIの歴史的牙城であるメキシコ州で州知事選挙が行われ、翌年の大統領選挙を占う重要な選挙とみられているため、野党連合の今後に注目が集まる。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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