保有債券含み損により米中堅銀の1割弱が資本不足、貸し出し能力悪化でGDPを0.44%押し下げ、IMF試算

(米国)

ニューヨーク発

2023年04月13日

IMFは4月11日、国際金融安定性報告書(GFSR)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。報告書によると、米国の資産規模100億~3,000億ドルの中堅・中小銀行の約9%の中核的自己資本(CET1)比率(注)が、保有する債券の含み損を考慮した場合に、同比率の国際的規制要件の7%を下回っている。

米国では新型コロナ禍以降、大規模な金融緩和が行われ、中堅銀行を中心にその得た資金を米国債や住宅ローン担保証券(MBS)などの安全資産に充てる動きがみられた。しかし、2022年からの米国連邦準備制度理事会(FRB)の急速な政策金利の引き上げによって債券価格は大きく下落、保有債券の含み損が拡大し、これが主因となってシリコンバレー銀行(SVB)の経営破綻など、銀行セクターの信用不安につながった(2023年3月13日記事参照)。当局の迅速な資金供給などの支援策により、信用不安から生じた中堅銀行からの資金流出は落ち着いてきているが、財務面の健全性は引き続き懸念されており、ホワイトハウスが規制強化案を発表するなど(2023年4月3日記事参照)、中堅銀行の財務健全性への担保が現在焦点になっている。

実際には、満期保有債券の場合、現状の含み損をバランスシートに計上する必要はない。ただ、SVBなどの破綻は、市場が含み損を加味した場合の中堅銀行の財務健全性を不安視し、預金が流出、流動性不足に陥り、資金繰り難でこうした債権をやむなく売却したことが発端だった。今回の報告書では「市場心理は依然として脆弱(ぜいじゃく)で、多くの金融機関や市場はストレスにさらされている」とするとともに、金融システム安定のための資金供給は「インフレ抑制を損なう可能性がある」と指摘した。銀行が今後、貸し出し態度を厳格化させれば、幅広いセクターに打撃が及ぶとしており、特に中小銀行からの融資の比率が約7割と高くなっている商業用不動産部門への影響を懸念している。他の条件が変わらないことを前提にすると、銀行の貸し出し能力は今後1年でこれまでより1%近く低下し、実質GDPを0.44%低下させる可能性があるとしている。

3月の雇用統計は堅調だったものの、雇用者数の増加ペースは鈍化しており、今後はむしろ、財務改善を急ぐ中堅銀行が貸し出し態度をさらに厳格化させ、雇用の鈍化がさらに進み、ひいては景気が後退する懸念が焦点となってきている(2023年4月12日記事参照)。米投資銀行大手ゴールドマン・サックスによると、従業員数が100人未満の中小企業は米国の民間部門の労働力の35%を雇用しており、その融資借り入れの70%を2,500億ドル未満の中堅銀行から受けている。セクター別では商業用不動産に加えて、企業規模別ではこうした中小企業への影響が特に懸念される。

(注)「普通株式などTier1資本」(Common Equity Tier 1)。自己資本のうち、普通株および内部留保により構成される比率。

(宮野慶太)

(米国)

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