電力不足改善と再エネ推進の両立、困難に直面

(ベトナム)

ハノイ発

2023年04月20日

ベトナム政府は、安定した電力供給に向けた電源開発とともに、2050年までの温室効果ガスの排出量実質ゼロを目標に、脱炭素化・エネルギー転換推進に取り組んでいる。この2つの課題に対処すべく、近年、太陽光や風力などの再生可能エネルギー(再エネ)の開発が進み、2022年末時点の発電設備容量の27.3%を再エネが占めるに至った。

しかし、足元の電力需給状況は逼迫が続いている。ベトナム電力総公社(EVN)傘下の国家電力調整センター(NLDC)によると、需要の伸びとともに、2022年の発電量は前年と比べ6.1%増加したのに対し、設備容量は3.3%の小幅な増加にとどまった(2023年4月19日記事参照)。電力需要は今後も伸びると予想され、設備容量と実際の電力供給のさらなる拡大が求められる。

そうした中、再エネの発電設備を増設するだけでは電力不足に対処しきれず、課題解決が困難だとみられる。実際に電力を発電・供給していくには、北部を中心とした電力不足、再エネの不十分な系統連系、電力価格設定などの課題が複雑に絡み合うためだ。また、政府は今後の国のエネルギー政策を方向づける2021~2030年の電力開発指針「第8次国家電力開発基本計画(PDP8)」も公布できていない。

具体的には、ベトナム商工省によると、2023年3月下旬時点で、設備が完成しているにもかかわらず商業運転できていない再エネ案件は85件(設備容量約4,700メガワット相当)にのぼった(VNエクスプレス3月23日)。開発案件は、発電に適した気候条件の中部と南部に集中する。これら地域から電力が不足する北部へ電力を供給するには、送電網整備が必要となるが、系統連系に加え、価格体系の設計などが追い付かなかったとみられる。

再エネ案件には固定価格買い取り制度(FIT)があり、太陽光発電は2020年12月まで、風力発電は2021年10月までに商業運転を開始した案件であれば、FIT価格の適用を受けることができた。しかし、それ以降に運転を開始した案件に対する電力買い取り制度は決まっておらず、2023年1月、ベトナム商工省は新たな価格の枠組みが決まるまでの間、暫定の売買上限価格を設定している。ただし、この上限価格が安価であるため、国内の送配電を担う国営企業EVNと事業者間の調整が難航し、事業者の多くは商業運転を開始できていない。なかには、資金回収のため、一時的に相場よりもはるかに安い価格での操業を調整する事業者もいる。このため、再エネの設備容量増加だけでなく、制度面の整備も求められる状況だ。

再エネ発電事業者の事業継続、新たな開発の誘引のためにも、適切な価格設定が必要だが、電力価格の上昇につながる価格設定はインフレを誘発するため、政府は慎重に検討する。世界的な燃料価格高騰の影響からEVNの2022年の赤字は約36兆3,000億ドン(約2,070億円、1ドン=約0.0057円)におよんだが、国民生活への影響を懸念する政府の意向もあって、抜本的な電力料金の引き上げはできていない(注)。検討の猶予はあまりない状況といえる。

(注)ベトナム財政省は、2023年に電力料金を5%引き上げた場合に同年の消費者物価指数(CPI)が3.9%上昇、7%の場合は4.4%、8%の場合は4.8%上昇すると試算している。ベトナム国会は2023年のCPI目標を4.5%としている。

(萩原遼太朗)

(ベトナム)

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