国家選挙庁の力を弱める選挙制度改革を公布、民主主義弱体化につながる懸念

(メキシコ)

メキシコ発

2023年03月07日

メキシコ政府は3月2日、国家選挙庁(INE)の機構や選挙制度の改正により、関連歳出を抑える目的の一連の法改正外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを連邦憲法で公布し、翌日に施行した。ただし、2023年6月のメキシコ州とコアウイラ州の知事選挙には適用されない。同改正は、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領が2022年4月末に国会に提出したINE廃止も含む憲法改正案(2022年5月9日記事参照)が野党の反対で憲法改正に必要な3分の2の賛成を得られず、同年12月6日に廃案に追い込まれたのを受け、単純過半数の賛成で成立する二次法の改正によって憲法改正案の内容の一部実現を狙ったものだ(通称「プランB」)。2022年12月上旬に国会に提出され、上下両院の審議を経て2月末に与党連合の賛成多数で成立していた。

与党側は同改正で35億ペソ(約266億円、1ペソ=7.6円)の歳出削減が可能としているが、INEの権限を大幅に縮小し、円滑で公平な選挙実施を妨げる恐れが強い。選挙キャンペーン中の行政府による宣伝の禁止を弱める規定もあり、民主主義の弱体化につながると懸念する声もある。米国務省のブライアン・ニコルズ西半球問題担当次官も2月26日付ツイッターで「独立した選挙機関が民主主義のプロセスと法の支配を強化するために十分な資金を確保すべきという考えを米国も支持する」とし、同改正に懸念を表明していた。

INEはプランBが及ぼす悪影響を国民に紹介するためのウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを1月30日から開設しているが、以下の分野で大きな影響が出るとしている。詳細については、添付資料を参照。

  1. 投票所の設置・運営
  2. 選挙人名簿の管理
  3. 投票の集計
  4. 選挙における公平性
  5. 中立な選挙監視機関INEの弱体化

INEや野党は憲法訴訟の構え、INE支持する大規模デモも

プランBは、INEを選挙の独立自治機関と定める憲法を改正することなく、選挙制度・手続き一般法、政党一般法、連邦司法府組織法の改正、選挙分野の異議申し立て一般法の制定など、一般法(二次法)の改正によってINEの機能・権限を縮小する内容となっており、憲法違反の疑いが強い。野党やINEは法改正の公布に先立ち、既に憲法訴訟に訴える構えを見せていた。2月26日には、首都メキシコ市をはじめ国内複数都市で、プランBからINEを擁護する大規模デモが展開された。メキシコ市では50万人以上(主催者発表)とされる市民が参加して憲法広場を埋め尽くし、広場に面する最高裁を前に、後日提訴される予定の憲法訴訟でプランBを違憲と判断するよう求めた(2月27日付主要各紙)。

INEは3月3日、法改正施行令の付則第17条に基づき、事務総長のエドムンド・ハコボ・モリナ氏が14年務めた職を改正発効日に停止(解雇)されたことを受け、行政府が定めた法律には従うが、特定個人の権利を奪う法律の制定を禁じる憲法の規定に違反するとして、連邦選挙裁判所(TEPJF)に提訴したことを明らかにした。INEはこのほかのさまざまな憲法違反についても、司法のプロセスに今後着手することを明らかにしている(INEプレスリリース3月3日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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