大統領、選挙制度改革に向けた憲法改正案を国会に提出

(メキシコ)

メキシコ発

2022年05月09日

アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は4月28日、選挙制度改革に向けた憲法改正案PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を国会に提出した。改正案は、国政選挙や地方選挙、選挙管理体制に関する幅広い内容を含むが、重要な内容は以下のとおり。

  1. 国家選挙庁(INE)を廃止し、国家選挙国民投票庁(INEC)に改編、評議員数を現行の11人から7人に減らす。
  2. INECの評議員と連邦選挙裁判所(TEPJF)の裁判官は、行政府、立法府、司法府の提案に基づき国民投票で選出する。
  3. 地方選挙管理委員会を廃止して中央に集約する。
  4. 比例代表制を廃止し、下院議員数を現行の500から300に、上院議員数を128から96に削減する。
  5. 政党助成金を削減し、選挙キャンペーンにのみ充てる(注1)。
  6. 選挙期間中に禁止される「政府の広報活動」の定義を変更する(注2)。

改正案は選挙関連予算の削減に力点を置いており、AMLO大統領は、同選挙改革で240億ペソ(約1,536億円、1ペソ=約6.4円)の歳出削減が可能になるとしている(4月28日付AMLO大統領記者会見録外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

民主選挙は既に確立、憲法改正は不要との声も

大統領は選挙改革の目的の一つとして、民主選挙の強化を挙げているが、INEを中心とする選挙制度は十分に民主的であり、憲法改正は不要との声もある。全国紙「エル・ソル・デ・メヒコ」のコラムニストのエミリオ・ブエンディア氏は、「2014年の憲法改正によるINE設立以降、全国で322の選挙が実施され、多くで政権与党が交代したものの、選挙実施後の争いや混乱は起きていない。2021年の中間選挙(2021年6月8日記事参照)は「新型コロナ禍」でありながら、大統領選挙を伴わない国政選挙として過去最高の得票率を記録し、十分な国民参加も確保できている」とし、憲法改正は不要と主張する(4月29日付現地紙「エル・ソル・デ・メヒコ」)。4月7日付の現地紙「レフォルマ」の世論調査によると、INEのイメージを「とても良い」、「良い」と回答した比率は64%に上り、AMLO大統領とほぼ同率であり、上院議員及び下院議員の30%、政党の28%と比べると遥かに国民に信頼されている。

INEの解体に加えて重要な意味を持つ比例代表制度の廃止は、一般的に支持率の高い政党に有利に働き、与党・国家再生運動(MORENA)の勢力拡大に寄与するとみられる。仮に現国会の政党別議員構成を、比例代表選出議員を除いて計算すると、与党連合(MORENA、労働党、メキシコ緑の環境党)議員の下院の構成比は現行の55%から75%へ、上院では59%から63%へ上昇する(4月29日付現地紙「レフォルマ」)。野党国民行動党(PAN)のケニア・ロペス上院議員は4月28日付の記者会見において、大統領の選挙改革はINEを破壊し、民主主義と多元主義に害を成すと警告している(4月28日付PAN上院議員団プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

(注1)政党の日常的な活動資金としては、当該政党を支持する個人献金で賄う。

(注2)現政権下ではINEから大統領や主要閣僚などによる選挙期間中の広報活動違反が頻繁に指摘されているが、「政府の広報活動」の定義として公的資金を用いて行う広報活動と限定した。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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