米コロラド州セミナーで投資拡大呼びかけ、持続可能な航空燃料(SAF)の重要性も議論

(米国、日本)

米州課

2023年03月29日

ジェトロは327日、米国コロラド州と共催で「コロラド州ビジネスセミナー」を東京で開催した。同州でのビジネスに関心を持つ日本企業など68人が参加した。

開会あいさつを行ったジェトロの佐々木伸彦理事長は、日系企業83社が同州デンバーを中心にビジネスを行っていることや、2021年に実施した同州への投資拡大ウェビナーに約400人の参加登録があったことなどから、日本企業の関心の高さを紹介した(注1)。

基調講演を行ったジャレッド・ポリス知事(民主党)は、同州にはユナイテッド・ローンチ・アライアンス、マクサー・テクノロジーズ、シエラ・スペース、ロッキード・マーティン・スペースなどの航空宇宙大手が本社を構えるほか、同分野で400社以上の中小企業が集積するなど、強力なエコシステムを形成していると産業構造を説明した。また、アストロスケールやアイスペース(2020年11月11日記事参照)などの日本企業が同州に進出した事例を紹介した上で、日本企業のさらなる投資を呼びかけた。

写真 基調講演を行うジャレッド・ポリス知事(ジェトロ撮影)

基調講演を行うジャレッド・ポリス知事(ジェトロ撮影)

米国中央部に位置するコロラド州は人口584万人(2022年)、実質州内総生産3,738億ドル(2021年)を有し、人口・経済ともに拡大傾向にある。同州担当者によると、全米各地へのアクセスに優れることや、地元大学が高学歴の人材を多数輩出していること、生活費や法人税が他州と比較して優位性があることも同州でビジネスを行う魅力だとしている。

SAFや新技術の社会実装に向け、官民の取り組み進む

セミナーでは、航空分野や「持続可能な航空燃料」(SAF、注2)の展望についてパネルディスカッションも実施され、実業家としての経歴を持つポリス知事に加えて、同州内に拠点を有するボーイングや、成田国際空港~デンバー国際空港間の直行便を運航するユナイテッド航空、日本側からは経済産業省と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が参加した。

ポリス知事は、航空分野の今後のビジネスモデルについて問われたのに対し、航空機の電動化は小型機を中心に進むだろうとの展望を述べた。ただし、機体耐用年数を考慮すると、電動化に置き換わるまでには30年は見積もる必要があると指摘し、その移行期間の脱炭素化にはSAFが必要になってくるとして、同州でSAF導入促進に向けた税額控除の創設に取り組んでいると説明した。

ボーイング・ジャパン、ガバメント&サステナビリティ・パートナーシップリーダーのアリサ・シャックマン氏は、同社の787型機は30%以上が日本で製造された部品を使用しており、複合材料による軽量化やエンジン効率化による燃費向上が図られたと説明した。また、こうした研究開発や社会実装には政府やパートナー企業との連携が必要だと訴えた(注3)。

JAXA航空技術部門長代理の渡辺重哉氏は、国際民間航空機関(ICAO)が掲げた航空分野の2050年カーボンニュートラル(2022年10月12日記事参照)達成に向けて、当面はSAFが有力な手段とみられるものの、技術革新も不可欠だとして、イノベーションの必要性を強調した。

さらに、経済産業省航空機武器宇宙産業課長の呉村益生氏は、日本企業の持つ新技術の社会実装に向けて、同省と国土交通省が電動化や水素航空機の技術開発、軽量化・効率化などの安全基準・国際標準策定を見据えた航空機の脱炭素化に向けたロードマップ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを作成したことを紹介し、ロードマップに記された次世代航空機の開発を日米連携で進めたいと述べた。

写真 パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)

(注1)ジェトロは、米国への進出や拠点拡大時、工場設立や研究開発拠点の設立の立地選定支援サービスを提供している。

(注2)航空分野の二酸化炭素(CO2)排出量削減に向けて、SAFは最も削減効果が高いと目され、市場拡大が見込まれる。一方で、世界のSAF供給量は2020年時点で世界のジェット燃料供給量の0.03%にとどまり、製造コストは約2~16倍と割高。

(注3)ボーイングは2022年8月に、経済産業省との協力強化に関する合意書締結と、愛知県名古屋市への研究開発拠点設立を発表している(2022年8月2日記事参照)。

(葛西泰介)

(米国、日本)

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