人権や環境に関する注意義務法について初めての司法訴訟、NGOの訴え却下
(フランス)
パリ発
2023年03月14日
パリ司法裁判所は2月28日、石油大手トタルエナジーズに対する「注意義務法」(2021年6月10日付地域・分析レポート参照)に関する初めての司法訴訟の提訴を却下した。レ・ザミ・ドゥ・ラ・テール(地球の友人)などのNGOは、トタルエナジーズのウガンダとタンザニアの原油のパイプラインプロジェクトが両国の人権や環境、気候に壊滅的な影響を与えるとし、トタルエナジーズに注意義務の履行を求め、要求の緊急性を考慮して、2019年10月に急速審理(注)により提訴していた。
裁判所は却下の理由として、2022年12月の公判でNGOがトタルエナジーズに対する要求や訴えの提起に200を超える新たな書類を提示したことで、提訴の出発点である送達時の内容と実質的に異なると判断、手続き上の手順を順守しなかったと見なした。さらに、トタルエナジーズは詳細な「注意義務」に関する計画書を作成しているとした上で、その計画書が不十分かどうかについては徹底的な検討が必要で、その判断は急速審理の判事(すなわち、パリ司法裁判所の判事自らの)の権限を越えているとした。今回は急速審理のため該当しないが、同案件審理担当の判事のみがNGOの訴えが根拠のあるものかどうか、トタルエナジーズが注意義務の順守を証明できるものを提供しているかどうか、必要ならば判断できるとした。
裁判所はまた、注意義務法に施行令が定められておらず、独立した監査機関が計画書を事前に評価することも事後に検証することも規定されておらず、明確な輪郭を持たないことにも言及した。
2017年3月施行の同法は、(1)フランス国内の直接・間接の子会社を含めて合計5,000人以上の従業員を雇用している企業、または(2)フランスに所在する企業でフランス国内外の直接・間接の子会社を含めて合計1万人以上の従業員を雇用している企業に、人権や環境への注意義務に関する計画書の作成と同計画の実施を義務付けている。
2022年12月現在まで、トタルエナジーズ以外にも、フランス電力、水・廃棄物処理のスエズ、小売りのカジノなど17社が提訴、催告の対象となっている。初めての司法訴訟となった今回の判決は注目を集めていたが、トタルエナジーズに有利な判決となった。
レ・ザミ・ドゥ・ラ・テールは2月28日、今回の判決は非常に遺憾としながら、「この判決は事件の核心である注意義務の順守について判断しておらず、トタルエナジーズが正しいと示したものではない」との見解を表明した。
レ・ザミ・ドゥ・ラ・テールなどのNGOは2月23日、気候変動に影響を及ぼすプロジェクトに金融支援をしているとして、銀行のBNPパリバを提訴した。レ・ザミ・ドゥ・ラ・テールは、この提訴が世界で初めて銀行に対する気候変動に係る注意義務順守違反を問う訴訟だと述べている。
(注)急速審理(レフェレ)とは、紛争を迅速に審理するための司法手続き。急速審理担当の判事は本案審理担当の判事による評価の前に、当事者の権利保全、損害防止、明らかに違法な妨害をやめさせるための暫定措置を命じることができる。
(奥山直子)
(フランス)
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