EU、エネルギー効率化指令案で政治合意、欧州委の修正提案の目標値を下回る

(EU)

ブリュッセル発

2023年03月13日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は3月10日、2030年までに温室効果ガス排出を1990年比で少なくとも55%削減するための政策パッケージ「Fit for 55」(注)の一環として、欧州委が改正を提案していたエネルギー効率化指令案(2021年7月20日記事参照)に関して、暫定的に政治合意したと発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。

今回の合意により、2020年のEU全体の最終エネルギー消費ベースの予測値と比較して、2030年までに少なくとも11.7%改善することが、法的拘束力のあるEU全体の目標となる。これにより、EU全体の最終エネルギー消費の上限が763石油換算メガトンに設定される。この2030年目標は、欧州委が「Fit for 55」の一環として提案した当初案の9%を上回るものの、ロシアによるウクライナ侵攻を機に、ロシア産化石燃料依存からの脱却計画「リパワーEU」(2022年9月1日付地域・分析レポート参照)で発表された修正案の13%を下回るものとなった。指令案は今後、EU理事会と欧州議会による正式な採択を経て施行される見込み。

EU理事会により、欧州議会の野心的な目標はトーンダウンする結果に

今回の合意は、「リパワーEU」の実現に向けて、修正案による当初案の強化が議論される中で、エネルギー効率化の2030年目標に関して、欧州委の修正案よりもさらに厳格な目標を掲げる欧州議会(2022年9月26日記事参照)と、欧州委の当初案を維持し、加盟国への義務付けを一定レベルに抑えたいEU理事会(2022年7月4日記事参照)の隔たりが大きく、両機関による交渉の行方が注目されていた。2030年目標のうち、数値目標に関しては11.7%という、EU理事会の立場と欧州議会の立場のほぼ中間値となった。

一方で、2030年目標全体に関しては、現時点では合意テキストは公開されていないものの、EU理事会の立場がより反映されたものになったとみられる。欧州議会は、最終エネルギー消費ベースだけでなく一次エネルギー消費ベースも、2030年目標の法的拘束力の対象に加えるべきとしていたが、今回の合意では、EU理事会の立場のとおり、最終エネルギー消費ベースのみが対象となり、一次エネルギー消費ベース(上限を993石油換算メガトンに設定)は努力目標となった。また、欧州議会は、EU全体だけでなく、加盟国別の2030年目標にも法的拘束力を持たせることを求めていたが、最終的にはEU理事会の立場のとおり、EU全体の2030年目標のみが法的拘束力の対象となり、国別の2030年目標は努力目標となった。

なお、エネルギー効率化指令案と同様に、「Fit for 55」における改正案と「リパワーEU」に伴う修正案が提案されている再生可能エネルギー指令案に関しては、現地報道によると、グリーン水素や原子力由来の低炭素水素などの扱いに関して意見が対立しており、合意形成が難航している。

(注)詳細はジェトロの調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向」を参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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