欧州委、持続可能な漁業・養殖業へ向けた施策を提案、エネルギー移行を重視

(EU)

ブリュッセル発

2023年02月28日

欧州委員会は2月21日、EUの漁業・養殖業の持続可能性とレジリエンスの改善に向けた施策パッケージを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同パッケージは、「EU漁業・養殖業のエネルギー移行に関するコミュニケーション(政策文書)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」「持続可能でレジリエントな漁業に向けた海洋生態系の保護と復元のための行動計画PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」「共通漁業政策(CFP)に関するコミュニケーション外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」「水産食品に関する共通市場組織(CMO)に関する報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)」の4文書から成る。

CFPの完全実施、漁業・養殖業による海洋生態系への負担軽減や若年層の両部門への就業促進に加え、欧州委がパッケージの中核目標に据えたのは「エネルギー移行」だ。欧州委は、漁業では、ガソリンを使う小型漁船の一部を除くと大半の漁船がディーゼルを燃料とすること、養殖業では、船舶の動力源、給餌装置、送水ポンプなどへの電力が必要なため、両部門はエネルギー集約的で、化石燃料への依存も高い、と指摘した。特に、2022年にエネルギー価格が高騰し、操業コストを押し上げた結果、多くの事業者が操業を停止したり、公的財政支援に頼らざるを得なくなったりしたと指摘。エネルギー移行を進めることで、両部門のエネルギー価格の変動に対する脆弱(ぜいじゃく)性を克服し、2050年までの気候中立達成というEUの目標への貢献や持続可能な食品生産につなげるとした。

欧州委がエネルギー移行の主要な手段として挙げたのは、漁船や養殖設備のエネルギー効率の向上と、再生可能なエミッションゼロまたは低炭素エネルギーへの転換だ。前者については、漁船の駆動システムの改良や、デジタル技術を活用して漁場の選択や巡航速度の調節を行うなど、漁船、漁具、漁法の見直しを提案。養殖業では、設備のエネルギー効率化に加え、海藻の養殖といった持続可能な新たなモデルを推進しながらエネルギー使用量や温室効果ガス排出量の削減を目指すことを提案した。また、化石燃料から、グリーン電力、水素、アンモニア、メタノール、合成燃料やバイオ燃料への転換が必要だとした。

欧州委は、両部門のエネルギー移行の障壁は関係者間の連携、研究開発成果の実地応用機会、労働者のスキルと資金の不足だと指摘。そこで、欧州委主導で2023年内に「EU漁業・養殖業のためのエネルギー移行パートナーシップ(ETP)」を設立し、研究機関、公的機関、造船業界、港湾当局、エネルギー供給事業者、NGOや金融機関といった幅広い関係者を巻き込み、2050年までのエネルギー移行に向けたロードマップ作りを行う。ETPの下で、例えばエネルギー移行関連の知識やベストプラクティスを紹介するオンラインプラットフォームを設けて、既存の、もしくは新たな技術の実地応用を図る。また、若年層の就業を促すとともに、オンライントレーニングも含めた労働者のスキル習得機会の拡充に向けた取り組みを行う。さらに、欧州海洋・漁業・養殖基金(EMFAF)を含め、既存のEUの基金や支援メカニズム、復興レジリエンス・ファシリティー(2023年2月24日記事参照)などが活用できるとして、両部門向けのガイドやデータベースを作成し周知していくとした。

(滝澤祥子)

(EU)

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