EUインド貿易技術評議会を設置、デジタル、グリーン技術、サプライチェーンで関係強化へ

(EU、インド)

ブリュッセル発

2023年02月08日

欧州委員会は2月6日、「EUインド貿易技術評議会(Trade and Technology Council:TTC)」の設置を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUインドTTCは、貿易や技術分野における共通の課題に取り組み、協力関係を強化するための政治主導のハイレベル対話の枠組みとして、2022年4月に設置が合意されたもの(2022年4月27日記事参照)。欧州委は、EUインドTTCを通じて、安全保障や持続可能な開発といった共通の利益を実現すべく、インドとの政策や技術面での調整を進めるとしている。EUは、インドを民主主義という価値を共有するパートナーとみなしていることから、地政学上の環境が急速に変化する中で、今後も関係強化の動きが続くとみられる。

今回設置されたのは、閣僚会議に向けた準備作業を担う、以下の3つの作業部会だ。

  • 戦略的技術、デジタル・ガバナンス、デジタル接続性に関する作業部会:第5世代・第6世代移動通信システム(5G・6G)、人工知能(AI)、高性能・量子コンピュータ、半導体、クラウド・システム、サイバーセキュリティー、デジタルプラットフォームに関するルール形成や共同の研究開発など。
  • グリーン・クリーンエネルギー技術に関する作業部会:クリーンエネルギー、廃棄物管理、海洋廃棄物・プラスチック対策、循環型経済などの分野での、投資、標準化、研究開発、中小企業やスタートアップ間での協力など。
  • 貿易、投資、強靭(きょうじん)なバリューチェーンに関する作業部会:重要な部品、エネルギー、原材料へのアクセス強化など。また、貿易障壁のほか、WTO、G20などの多国間協力に基づく貿易の推進、投資スクリーニングなどの課題にも取り組む場合がある。

2023年春には第1回閣僚会議の開催を予定しており、これらの作業部会は、閣僚会議に向けて直ちに協議を始めるとしている。

連携強化が続くEUインド関係

EUは2021年9月、インド太平洋地域における中国の影響力の拡大を背景に、同地域におけるEUのプレゼンスを強化するための戦略(2021年9月17日記事参照)を発表。同じく民主主義国家であるインドとのパートナーシップを最重要事項の1つとして、関係強化に動いている。今回インドとの間に設置されたTTCという枠組みは、そもそも米国との貿易・技術分野での関係改善のために欧州委が提案したものだ。EU米TTCは、2021年のEU米首脳会談(2021年6月16日記事参照)において設置が合意され、10の作業部会のもとで第3回までの閣僚会議(2022年12月6日記事参照)が開催されている。EUインドTTCはEU米TTCに続く2つ目のTTCで、インド太平洋地域初のTTCのパートナーにインドを選んだことからも、EUにおけるインドの重要性がうかがえる。このほかに、インドとは、2007年に開始したものの、2013年以降、事実上停止していたFTA(自由貿易協定)交渉を、2022年6月に再開させたほか、投資保護協定や地理的表示に関する協定の交渉も開始させている。なお、FTA交渉は、2022年12月までに3回の交渉会合が開催されているが、実質的な交渉が始まったばかりで、今後もTTCとは別の枠組みで続けられる。

(吉沼啓介)

(EU、インド)

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