2025年から多国籍企業へのグローバルミニマム課税導入へ

(シンガポール)

シンガポール発

2023年02月16日

シンガポールのローレンス・ウォン副首相兼財務相は214日、2023年度(20234月~20243月)政府予算案で、「税源浸食と利益移転(BEPS2.0」イニシアチブの第2の柱のグローバルミニマム課税(最低税率課税)を2025年から導入する方針を明らかにした。対象となる多国籍企業に対して、最低15%の最低税率と実効税率との差額分に対して、追加納税の「国内トップアップ税」を課す。

ウォン副首相は20217月、同国に拠点を置く多国籍企業のうち、グローバルミニマム課税の対象となる多国籍企業が約1,800社で、この多くの実効税率が15%を下回ると指摘していた(2021年7月7日記事参照)。同副首相は今回の発表で、国内トップアップ税を導入するのと同時に、「シンガポールが引き続き投資の誘致や維持で競争力を維持するため、産業開発政策全体を見直し、アップデートする」という考えを示した。その上で、グローバルミニマム課税導入に関する各国の動きを引き続き注視し、各国の導入が遅れるようであれば、シンガポールの導入時期も調整すると述べた。

イノベーションを一段と奨励、税控除を拡大

ウォン副首相は国内でのイノベーション活動を強化するため、新たに「エンタープライズ・イノベーション・スキーム」を導入すると発表した。同スキームは、(1)国内での研究・開発(R&D)活動、(2)特許、商標など知的所有権(IP)の登記、(3IP取得、ライセンシング、(4)政府が認定するコースでの技術研修、(5)高等専門学校(ポリテクニック)と技術専門学校(ITE)との共同研究という5分野それぞれに関わる20242028年度までの各賦課年度の適格支出について、上限額の範囲内で400%の税控除を認めるというもの。税控除の対象となる適格支出の上限額は、(1)~(4)がそれぞれ40万シンガポール・ドル(約4,000万円、Sドル、1Sドル=約100円)、(5)の上限額については5Sドルと設定した(注)。今回のスキームの活用によって、企業は最大70%の節税が可能としている。

また、同副首相は既存の労働生産性向上のための支援基金「国家生産性基金」について、投資誘致を支援対象へ追加するため、40Sドルを基金に追加拠出することも明らかにした。同副首相は「BEPS2.0 が導入されれば、新規投資を誘致するための税インセンティブの選択肢が少なくなる」と指摘。新たな環境に対応するためにも「国全体の生産性を向上し、労働者の競争力を向上させる必要がある」と強調した。

(注)「エンタープライズ・イノベーション・スキーム」の詳細は、2023年度政府予算案の付属書類PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を参照。

(本田智津絵)

(シンガポール)

ビジネス短信 92ac35280b76eebc