シャーマン米国務副長官、気球問題後も中国との対話維持を強調、シンクタンクで演説

(米国、中国)

ニューヨーク発

2023年02月16日

米国のウェンディ・シャーマン国務副長官は215日、米国シンクタンクのブルッキングス研究所で、バイデン政権の対中政策に関して演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。米国領空に侵入した中国のものとみられる偵察気球が米中関係の新たな問題となる中、シャーマン副長官は今後も中国との対話を続ける姿勢を見せた。

シャーマン副長官は演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、中国は米国にとって地政学的な挑戦であり、「『ルールに基づく国際秩序』を再構築する意図と手段を持つ唯一の競争相手」との認識を示した。その証拠として、同国による香港や新疆ウイグル自治区、チベットでの人権侵害や、経済的な威圧行為、台湾への威嚇に加え、中国のものとみられる偵察気球に言及した。気球問題を受けて商務省が発表した中国企業に対する輸出管理措置(2023年2月13日記事参照)を挙げ、「われわれは中国がもたらす挑戦に、常に決意と覚悟を持って対応する」と強調した。その一方、中国との対立は望んでいないとして、これからも同国との開かれた対話を維持すると主張した。

シャーマン副長官は米国の対中戦略について、アントニー・ブリンケン国務長官が20225月の演説(2022年5月27日記事参照)で言及した、投資・連携・競争の3つの柱を強化する必要性を説いた。投資に関しては、CHIPSおよび科学法などによる国内投資のほか、国務省の体制強化にも触れた。具体的には、2022年12月に国務省内に設置した中国調整室外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます(通称「チャイナ・ハウス」)が対中政策に関わる国内外との協調を強化すると指摘した。

シャーマン副長官は、中国の挑戦は世界全体に及ぶとして、特に同盟・友好国との連携強化の重要性を訴えた。発表から1年を迎えたインド太平洋戦略(2022年2月14日記事参照)に沿い、バイデン政権が同地域への関与を深めている例として、ソロモン諸島とモルディブでの大使館開設や、米国と日本、オーストラリア、インド4カ国によるクアッド(QUAD)の継続的な協力、米国主導の経済圏構想のインド太平洋経済枠組み(IPEF)などを挙げた(注)。シャーマン副長官も20228月に太平洋諸国を歴訪し、同地域との関係強化に自ら動いている(2022年8月10日記事参照)。

米中は202211月の首脳会談後に政府高官の対話を続けてきたが、偵察気球を巡る問題により、2月に予定されていたブリンケン国務長官の訪中が延期された(2023年2月6日記事参照)。シャーマン副長官は演説後の質疑応答で、訪中再開の条件を問われた際、「段階的に適切な機会を見つける」と述べるにとどめた。その一方、気球が発見された後も中国との意思疎通を続けたことを強調し、意見を異にする場合でも中国との対話を止めることは米国の安全保障にとって利益にならないと答えた。

(注)国務省は213日、インド太平洋戦略に関する過去1年の主要な成果をまとめたファクトシートを発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますしている。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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