欧州委、ネットインフラの費用負担に関し公開諮問を開始、IT大手の負担義務も選択肢

(EU)

ブリュッセル発

2023年02月28日

欧州委員会は2月23日、通信速度が1ギガビット毎秒(Gbps)に対応した通信(ギガビット通信)のインフラ整備に関する新たなイニシアチブを発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。ギガビット通信のインフラ整備の費用負担に関するパブリック・コンサルテーション(公開諮問)を開始した。EUは、域内のデジタル化への移行に向けて、2030年までに域内の全家庭へのギガビット通信の接続などを目指す政策プログラム「デジタル化の10年間」(2021年9月17日記事参照2021年3月12日記事参照)を推進しており、インフラ整備を急速に進める必要があることから、インフラ整備費用の「公平な負担」の在り方に関する議論は今後、注目が集まるとみられる。

欧州委は、メタバース(仮想現実空間)、クラウドサービス、人工知能(AI)などの活用が進む中で、高速インターネット通信の需要は今後も引き続き高まると予測。一方で、インフラ整備への投資に関しては、多額の費用が必要であるにもかかわらず、投資に対するリターンは減少していることから、通信ネットワーク事業者の投資へのインセンティブは増えていないと指摘している。こうした中で、通信ネットワーク事業者は、米国の動画配信サービスなどコンテンツやアプリケーションを提供する企業(CAP)が、インフラ整備の費用負担はなく、通信ネットワーク事業者が整備したインフラを活用することで収益を上げているとして、特に大量のデータ通信の発信元になっているCAPに対して「公平な負担」を求めるべきとしている。

一方で、CAPを対象にネットワークへのアクセスやデータ通信量に応じた費用負担を求める主張に対しては、大量のデータ通信は、通信ネットワーク事業者の顧客であり、通信費用の負担者であるCAPのエンドユーザーのリクエストに応じて提供するサービスの結果であることや、通信費用は必ずしもデータ通信量に依存するものではないことなどの反論が出ている。また、コンテンツやアプリケーションなどに関係なくインターネット上の全てのデータを平等に扱うべきとする、ネットワーク中立性に反する恐れがあるとの反対意見もある。

そこで、欧州委は公開諮問において、インフラ整備の費用負担に関して、(1)CAPに直接的な負担を義務付ける制度の導入(大量のデータ通信の発信元として負担を求められるCAPの対象範囲も含む)、あるいは(2)EUまたは加盟国レベルでのデジタル基金の創設、という選択肢を提示した上で、それぞれ意見を求めている。欧州委は、2023年5月19日まで意見を募集しており、提出された意見を精査した上で、今後の政策を判断するとしている。

なお、欧州委は今回のイニシアチブの一環として、「ギガビット・インフラ規則案」と、通信ネットワーク事業者を監督する加盟国当局向けの勧告案も提案した。規則案は、ギガビット通信の整備の遅延やコスト高といった課題を克服すべく、許認可手続きの簡略化・迅速化・デジタル化、インフラ整備の関係事業者間の調整、建物の新築や改築の際にギガビット通信回線の敷設の義務付けなどを規定している。

(吉沼啓介)

(EU)

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