今後の米国政治の主要テーマは移民問題、ダボス会議で明らかに

(米国、スイス、日本)

米州課

2023年01月18日

スイスのダボスで開催されている世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で1月17日、米国の国内政策と外交政策の見通しについてのパネルディスカッションが行われた(注1)。WEFのボルゲ・ブレンデ総裁を司会者に、ブライアン・ケンプ知事(共和党、ジョージア州)、JB・プリツカー知事(民主党、イリノイ州)、ジョー・マンチン上院議員(民主党、ウェストバージニア州)、クリストファー・クーンズ上院議員(民主党、デラウェア州)、マリア・エルビラ・サラザール下院議員(共和党、フロリダ州)、キルステン・シネマ上院議員(無所属、アリゾナ州、注2)が登壇した。

2022年11月の中間選挙で、連邦上院では政権与党の民主党、連邦下院では政権野党の共和党がそれぞれ多数派を占めるねじれの議会構造となったことを踏まえ、パネルディスカッションの冒頭では、2024年の次期大統領選までの今後2年間の議会運営見通しについて議論が行われた。クーンズ議員は立法措置が難しくなるだろうと認めつつ、中間選挙前も上院では民主党と共和党が50議席ずつを分け合う構図にあった中で、インフラ投資雇用法やCHIPSおよび科学(CHIPSプラス)法などを超党派で立法してきたとした上で、同盟国との関係強化や対中国措置、また、ウクライナ支援でなどでは超党派で幅広い合意が得られるだろうと指摘した。プリツカー知事は「現実を否定するような人々と協力する方法を見つけることは難しい」と述べつつも、「米国には、共和党側でも民主党側でもなく、米国側しかない」「異なる角度から問題を解決するために協力し合う必要がある」と指摘した。マンチン議員も同様に、欲しいものを全て手に入れられないからといって党派間で対立するのではなく、妥協も含めて勝利と見なして次に進む必要があると述べた。

また、マンチン議員は連邦議会での今後2年間の最大のトピックについて問われたのに対して「移民問題」と答え、国境警備に取り組まない限り移民問題は解決しないと指摘した。移民問題については多くの登壇者から同様の意見が聞かれた。シネマ議員は現在の入国管理制度は「完全に崩壊している」と述べた上で、麻薬や犯罪者を米国内に持ち込むことを阻止できるよう、移民や亡命など入国管理制度を改革する必要があると指摘し、2023年中に上下両院で入国管理制度の改革法案が通過できるよう、超党派の連携を模索していると明らかにした。さらに、共和党のサラザール議員はより踏み込んで「国境を封鎖する時が来た」と述べ、移民は正当な手続きを踏まなければならず、入国管理制度の完全な見直しをすべきだと主張したほか、ケンプ知事は制度改革について超党派の幅広い支持が得られるはずだと指摘した。

連邦下院で共和党内の対立からケビン・マッカーシー議長(共和党、カリフォルニア州)の選出が遅れたことについて(2023年1月10日記事参照)、サラザール議員は「最後に民主主義が機能したということができる」と、最終的に党内合意に至った成果を強調し、議長選出までの3日間で共和党内の保守派や穏健派などが派閥を超えて協力できることを証明したとして、共和党内の党内対立による今後への影響を否定した。

ウクライナへの支援については、マンチン議員はゼレンスキー同国大統領が米国議会で演説したことを評価した上で、大規模な支援を続けるべきかという疑問の声もあるとして、賛否両論があることを認めつつ、「ウクライナが勝利を収めるまでともに歩んでいくつもりだ」「それはウクライナだけでなく、世界全体のためになる」と強調した。共和党のサラザール議員も、党内で激しい議論があると前置きしつつ、「少なくとも私の票は、彼らが勝利するまでウクライナとともにある」と賛同した。また、安全保障については、WEFのブレンデ総裁が「世界第3位と第4位の経済大国である日本とドイツがGDPの1~2%を防衛費に充てることを決定したことは、非常に重要なことだ」と述べたほか、シェリル議員は「民主主義国家が結束して防衛力を強化することが重要だ」と強調した。さらに、クーンズ議員は、米国経済を強固にしている要因の1つとして、価値を共有する同盟国との連携だとして、インド太平洋地域との協力は今後2年間でさらに大きな進展がみられるだろうとの展望を述べた。

(注1)パネルディスカッションの様子はダボス会議のWEBページ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで視聴可能。

(注2)12月に民主党からの離党を表明した(2022年12月13日記事参照)。

(葛西泰介)

(米国、スイス、日本)

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