米国、通商拡大法232条に基づく鉄・アルミ関税などを違反としたWTO裁定に上訴

(米国)

ニューヨーク発

2023年01月30日

米国は1月27日、WTO紛争解決機関の第一審に当たるパネルが協定違反とした米国の2つの措置に関する裁定に対して上訴する意向を表明した。しかし、第二審に当たる上級委員会は機能停止に陥っているため、最終的な裁定結果は同委員会の再開まで保留となる見通しだ。

紛争の対象となっている措置は、(1)米国が2018年3月に発動した1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミ製品輸入に対する追加関税と、(2)2020年8月に導入した香港原産品を中国原産と表示することを義務付けるルール(2020年8月17日記事参照)となる。(1)に関しては中国、ノルウェー、スイス、トルコが、(2)に関しては独立のWTO加盟主体である香港が、関税および貿易に関する一般協定(GATT)違反として提訴し、米国はいずれの措置もGATT第21条の安全保障のための例外で正当化されると主張していた。パネルはいずれの件についても2022年12月に、米国の措置は協定違反とする裁定結果を公表したが、米国はその内容に強く反発していた(2022年12月12日記事参照)。

ジュネーブ国際機関米国政府代表部でWTO大使を務めるマリア・パガン米国通商代表部(USTR)次席代表は「これらの誤った裁定結果が認められれば、多国間の貿易システムの基盤が侵食されてしまう。したがって、米国はこれらの有害で誤った裁定結果につき上訴する決断を紛争解決機関に通知した」と米国の判断について説明している。ただし、第二審に当たる上級委員会については、米国が委員の選定を阻んでいるため、2019年12月以降、機能停止となっている。上級委員会が越権行為により加盟国の権利を侵害している、というのが米国の主張だ(2020年12月1日記事参照)。現下の状況では、2024年に予定される第13回WTO閣僚会合(MC13)までは、紛争解決機関を含むWTO改革の議論に具体的な進展は見込めないとの見方が強く、最終的な裁定結果は当面、保留となる可能性が濃厚だ。パガン氏もロイターのインタビュー(2023年1月26日)で「2024年までに紛争解決システムを完全に機能させることがわれわれの目標だ」と発言している。

(磯部真一)

(米国)

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