米税関、香港原産品に「中国原産」表示を義務付け、関税率は変えず

(米国、中国、香港)

ニューヨーク発

2020年08月17日

米税関・国境保護局(CBP)は8月11日、香港原産品の扱いの変更に関する官報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。これにより香港原産品を米国に輸入する場合の原産地表示は「中国原産」としなければならない。このルールは7月29日に遡って有効となるが、9月25日までは移行期間として猶予が与えられる。9月26日以降に米国に入るものは全て「中国原産」と表示することが求められる。違反の場合には10%の追加関税が徴収される。他方、CBPが合わせて公開した質問回答集(FAQ)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、香港原産品の関税率はこれまでと変わらない。よって、米政府が1972年通商法301条に基づき、指定した中国原産品に課している追加関税に関しては、香港原産品は引き続き対象外となる(注)。

今回の措置はトランプ大統領が7月14日に署名した香港への各種優遇措置を停止する大統領令13936に基づくもの(2020年7月16日記事参照)。同大統領令において、米国への輸入品目に関する原産地表記を規定する1930年関税法304条(合衆国法典〔USC〕第19編の第1304条)を香港へ適用することは既に停止するとされていたが、細則の規定は関係省庁の長に指示する形となっていた。

他方、CBPのFAQでは、原産表示の変更は、米国の関税譲許表に基づいて関税率を決定する上での原産国の判断には影響しないとしており、香港原産品は引き続き国際標準化機構(ISO)に対して国・地域コードで「HK」と報告するよう記載されている。よって、香港原産品であれば、米政府が指定した中国原産品に課している301条追加関税の対象外となる。米国の通商法専門の弁護士は、CBPが香港原産品の関税率を変えなかった点をもって今回の変更は「概ね象徴的なもの」と分析する。また米政府の判断につき「香港原産品を301条関税の対象としても中国の行動を改めるほどの経済効果は無く、むしろ、選挙に向けてトランプ大統領が第1段階の米中貿易協定の成果に期待している中では、(追加関税賦課による)事態の更なる悪化は得にならないと判断したのではないか」との見方を示した。同氏は、米政府による香港原産品に対する関税の扱いに変更の余地が残る点を指摘し、米国通商代表部(USTR)やCBPから追加の発表があるか注視すべきとしている。

香港政府は本件に対して8月11日、米政府の措置は香港がWTOの個別の加盟主体であることを無視していると批判し、米政府に対して実施細則を確認した上で場合によってはWTO協定のルールに基づいて行動を起こす可能性も排除しないとの声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出している。

(注)中国原産品を香港経由で米国に輸入した場合は、追加関税の対象となる。

(磯部真一)

(米国、中国、香港)

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