米国、USMCAの自動車原産地規則を巡る紛争でメキシコとカナダに敗訴

(米国、カナダ、メキシコ)

ニューヨーク発

2023年01月13日

北米3カ国が加盟する貿易協定の米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の紛争解決パネルは1月11日、自動車原産地規則の解釈を巡ってメキシコとカナダが米国を提訴していた案件で、米国の主張が協定不整合との最終報告を公開外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

USMCAはその前身の北米自由貿易協定(NAFTA)に比べて、自動車の域内貿易が無関税となるための原産地規則を厳しく設定している。今回の紛争では、乗用車・軽トラックの完成車が満たすべき域内付加価値割合(RVC、注1)と、主要パーツ7種(コアパーツ)がそれぞれ満たすべきRVCの関係性が焦点となっていた(注2)。紛争当事国の間では、RVCを満たし、USMCAの原産性を獲得したコアパーツまたはスーパーコアを完成車に組み込む場合に、同パーツに域外付加価値が含まれていても、RVCを100%と見なす(いわゆるロールアップ方式)か、純粋に域内付加価値の比率のみをRVCと認めるかで主張が割れていた。米国がロールアップ方式を否定する一方、メキシコとカナダは2022年1月に、それは認められるとして紛争解決パネルの設置を要請するに至った。自動車メーカーとしては、米国の主張が認められると完成車の無関税での域内貿易が困難となるため、メキシコとカナダの主張を支持していた。一方、米国内の労働組合は米国の主張を支持するという構図となっていた。

パネルの最終報告では、協定の文言や目的に照らして解釈すると、米国の主張を支える要素は限られており、メキシコとカナダの主張が協定に整合的と結論づけた。その証拠として、米国が協定の交渉中から署名後に至るまで、メキシコとカナダの解釈を共有していたことが示されている。実際、当時の米国の首席交渉官が協定発効直前の2020年6月12日に、カナダ側に送ったEメールの一部が抜粋されており、完成車のRVC算定時にロールアップ方式を認めることが明示されている。米国通商代表部(USTR)のアダム・ホッジ報道官は声明でパネル裁定に落胆したとしつつ、「報告書を精査し、次の動きを検討している。メキシコおよびカナダと取り得る解決策について協議する」と今後の方針に言及した。協定によると、紛争当事国は最終報告の受領から45日以内に解決策に合意するよう努めることになっている。合意できない場合、提訴国側は損害と同等の範囲で、被提訴国側に協定上与えている利益の適用を停止することができる。

米国商工会議所や在米の非米国系自動車メーカーで構成するオートス・ドライブ・アメリカなどの業界団体は、パネルの裁定結果を歓迎する声明を出している。一方、全米鉄鋼労働組合は「パネルの決定は北米の労働者を痛めつけるだけでなく、協定そのものを弱体化させ、中国やそのほかの外国生産者に勝利を与えるものだ」と批判する声明を出している。

カナダ(2023年1月13日記事参照)とメキシコ(2023年1月13日記事参照)の両政府も、今回の最終報告について反応している。

(注1)RVCは段階的に引き上げられており、ネットコスト方式で、発効時が66%、2021年が69%、2022年が72%、2023年以降が75%となっている。ネットコスト方式とは、FOB取引価額から利益を除いた総費用から、販売促進費やマーケティングおよびアフターサービス関連費用、使用料、輸送費および梱包(こんぽう)費、不当な利子を減じた純費用(NC)を分母とし、純費用から非原産材料価額(VNM)を控除して残った付加価値が純費用の何%に相当するかで計算する方式。

(注2)エンジン、トランスミッション、車体・シャーシ、駆動軸・非駆動軸、サスペンション、ステアリング、先端バッテリーで、それぞれネットコスト方式で75%か取引価格方式で85%となる。ただし、先端バッテリーのみ、関税分類変更基準の適用が可能。1種類でもRVCが満たせない場合、完成車の無関税での貿易は認められないが、救済規定として7種類全てを1つのパーツ(スーパーコア)と見なして全体でRVCを満たしていれば、条件をクリアしたと見なされる。取引価格方式とは、FOB取引価額(TV)から非原産材料価額(VNM)を控除して残った付加価値で判断する基準。

(磯部真一)

(米国、カナダ、メキシコ)

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