カナダ政府が重要鉱物開発プロセスの迅速化目指す、重要鉱物戦略発表

(カナダ、米国)

米州課

2022年12月15日

カナダ政府が12月9日に発表した「重要鉱物戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(注1)では、カナダの許認可がほかの国に比べ時間を要し開発が長期化している状況を踏まえ、「プロジェクト開発の加速」が目標達成のために注力する分野として挙げられている。同戦略では、「現在、採掘プロジェクトが稼働するまでに5年から25年を要する場合がある」とプロジェクト開発期間の長期化を指摘した上で、改善策を示している(下記および添付資料表1参照、特に2021年度および2022年度予算内で具体的に想定されている支援については添付資料表2を参照)。

(1)重要鉱物センター・オブ・エクセレンス(CMCE、注2)に対し、プロジェクト開発者が諸規制に対応し、連邦政府からのサポートを受けられるよう支援することを義務付けること

(2)鉱業への規制および許認可プロセスに対して、カナダの連邦、州・準州のアプローチを調整するための会議を行うこと

(3)カナダ天然資源省やカナダ影響評価庁、その他連邦政府機関による作業部会で、カナダの規制枠組みを見直し、クリーンな成長プロジェクトをタイムリーかつ予測可能な方法で進める機会を特定するのと同時に、カナダ国民の利益、環境保護、先住民族の権利の尊重を図ること

(4)米国のパートナーとの規制調和の機会を模索すること

特に、連邦と州の両方の影響評価または環境評価が必要な主要な開発プロジェクトの場合、カナダ政府は、重複を減らして効率を高めることにより、プロジェクトの審査の際に「1プロジェクトに対し1つの評価」という目標の達成を約束するとしている。連邦政府はまた、カナダ北部での重要鉱物プロジェクト推進においては、先住民族と情報共有した上で、意思決定していくことが重要と強調している。

プロジェクト許認可迅速化のためのツールには、カナダ事業開発銀行、カナダ輸出開発銀行、カナダ商業公社などの連邦政府の組織のほか、すでに電気自動車(EV)のバッテリー産業に多額の投資を行っている「戦略的イノベーション基金(SIF)」などの既存のプログラムを活用しての資金援助を挙げている。特にSIFについては、今回の戦略で提示する重要なツールキットの1つと明記している。

カナダでの鉱物資源開発の進展の遅さを示す典型的な例として、現地報道で引き合いに出されるのが、オンタリオ州北部にある、クロム鉄鉱、コバルト、ニッケル、銅、プラチナなどが埋蔵しているとみられる大規模鉱床地帯「リング・オブ・ファイア」だ。重要鉱物が2006年に発見されたが、現在の開発ペースでは、採掘が行われたとしても永久に商業ベースの生産に至らない可能性があるとの批判もでていた。プロジェクトの遂行には先住民族の合意が不可欠だが、先住民族は、鉱業への影響調査を適切に実施するに十分なリソースを持っていないため判断に時間を要する上、ほかの適切な方法があれば承認していた可能性のあるプロジェクトを却下することもあり得るとの指摘も出ている。開発迅速化に向けた方策が盛り込まれ、状況打開が期待される今回の戦略だが、業界関係者によれば、今回の戦略に欠けているものとして、影響調査実施面での先住民族への財政支援の追加が挙げられている(「グローブ・アンド・メール」12月9日)。

(注1)戦略文書の全容については2022年12月15日記事を参照。

(注2)連邦政府内の重要な鉱物プログラムの中心的な調整ハブとして機能し、パートナーや利害関係者がカナダの規制プロセスをナビゲートしてプロジェクト開発を支援するカナダ天然資源省下の設置機関。

(高山さわ)

(カナダ、米国)

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