高速鉄道が4事業者競合の中、日立製車両のイリオが営業運転開始

(スペイン、日本)

マドリード発

2022年12月01日

スペインで4番目となる高速鉄道サービス「イリオ(Iryo)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」が、1125日からマドリード~バルセロナ線で営業運行を開始した(2020年8月19日記事参照)。運営事業者は、旧イタリア国鉄系トレニタリア、スペインの航空会社エア・ノストラム、同交通インフラ運営会社グローバルビアの3社による合弁企業イルサ(ILSA)で、初の民間事業者参入となる。12月中旬にはマドリード~バレンシア線での運行開始も予定している。

イルサは、日立製作所とカナダのボンバルディア(フランスのアルストム傘下)が共同設計・開発した新型の高速鉄道車両「ETR100020編成を保有し、イリオの車両に採用した。イタリアの高速鉄道でおなじみの「フレッチャロッサ1000」をベースとした赤い車体で、営業最高時速は欧州最速級の360キロ。イリオの強みの1つは、両都市を2時間半で結ぶスピードだ。将来的には航空会社との合弁関係も生かし、航空券と高速鉄道乗車券をセットで提供するマルチモーダル式の営業で世界中から集客を図るという。

EUで最も競争の激しい高速鉄道市場

スペインでは202012月のEU域内の国内旅客鉄道の自由化の後、すでに3社の新規参入があり、新型コロナ禍の影響を受けながらも順次、営業運転を開始している。「スペイン高速鉄道(AVE)」を運営してきたスペイン国鉄(レンフェ)は20216月に、子会社の格安高速鉄道「アブロ(AVLO)」の運行を開始。フランス国鉄(SNCF)は20215月に、同「ウイゴ(Ouigo)」の運行を開始した。主戦場は、マドリードからバルセロナおよびバレンシア方面への2路線だが、各社は今後、南部のセビリアやマラガなどのアンダルシア方面などにも参入する予定だ。

今回のイルサ参入により、スペインの高速鉄道市場では、スペイン・フランス・イタリア3カ国の4運営事業者が競合することになる。スペイン政府は、「これは前例のない市場開放」であり、競争自由化により上記の主要3路線における運行本数は55%増加するとしている。

既にマドリード~バルセロナ間の高速鉄道の1日当たりの運行本数(片道)は、レンフェおよび子会社のアブロが約25本、ウイゴが5本、イリオが78本で合計40本近い運行本数となっている。イリオは、今後16本まで増便予定。一方、同区間の航空直行便も、イベリア航空など3社で1日当たり約28便運航されており、両都市間における空と鉄道の旅は熾烈(しれつ)な競争にさらされる。

両都市間の高速鉄道利用者数の統計は公表されていないが、スペイン鉄道インフラ管理会社(ADIF)によると、マドリード~バルセロナ間の高速鉄道の利用者数は、単月ベースで20218月に308,991人と、2019年同月の利用者数(265,217人)をすでに上回っている。他方、スペイン空港公団(AENA)によると、2022110月の両都市間における航空旅客数は約141万人と、2019年の同期間(約213万人)と比べて依然3割減となっており、スペインでは航空輸送から高速鉄道への利用者の流出がみられるようだ。

写真 日立製作所およびボンバルディア製の新型車両「ETR1000」(Roman RM提供)

日立製作所およびボンバルディア製の新型車両「ETR1000」(Roman RM提供)

(伊藤裕規子)

(スペイン、日本)

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