米国進出企業で「従業員の賃金上昇」が経営課題の筆頭に、ジェトロ海外進出日系企業実態調査(北米編)

(米国、日本)

米州課

2022年12月28日

ジェトロが2022年9月に実施したアンケート調査(注1)「2022年度海外進出日系企業実態調査(北米編)」では、在米日系企業が急激なインフレによる原材料・部品調達コスト上昇や人件費上昇の圧力を受けている実態が明らかとなった(2022年12月20日記事)。

米国では労働市場の逼迫が続いている。米労働省が発表した雇用動態調査(JOLTS)PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、ジェトロが調査を実施した9月の求人件数は1,070万件に対し、採用人数は610万人で、充足率は57.0%となった。新型コロナウイルス禍前の2019年の平均充足率は約80%だったことから、20ポイント以上低下している。求人率(注2)は6.5%に対し採用率(注3)は4.0%と、採用率が求人率を下回ることから、企業が求める労働力を充足できていない現状がうかがえる。

タイトな労働需給を反映して、在米日系企業の2022年度の基本給昇給率(ベースアップ率)の中央値は4.0%となったほか、2023年度(見込み)は3.5%で、賃金上昇圧力は高止まりしている。

在米日系企業が抱える経営上の課題では、「従業員の賃金上昇」(67.5%)が筆頭課題に挙がったほか、「従業員(一般社員)の確保」(51.4%)や「従業員の定着率」(40.2%)、「従業員(技術者)の確保」(39.4%)など、人員不足を挙げる企業が多く見られた。さらに、従業員の維持や確保のために賃金を引き上げざるを得ないこともあり、経営上の課題への対応策としても、「賃金の引き上げ」(59.3%)が筆頭になったほか、「人件費以外の経費削減」(35.1%)や「就業規則・雇用条件の見直し」(29.5%)など、雇用・労務面の対応策が上位になるなど、在米日系企業が人件費の上昇や人員確保に苦慮していることがうかがえる(添付資料図参照)。

また、人件費の上昇は在米日系企業のサプライチェーンにも影響を及ぼしている状況も調査結果から見て取れた。生産を今後見直す予定の企業は3割を超え(30.5%)、生産を見直す理由として「人件費の高騰」(63.0%)が最も多く、特に製造業では約7割(70.4%)に上った。在米日系企業からは「労働市場のタイト化により採用・雇用維持が困難なため生産設備の自動化を進める」(化学・医薬)といった声も聞かれ、その主な見直し内容として「新規投資/設備投資の増強」(31.2%)が筆頭に挙がった。さらに、今後「生産地の見直し」を予定する企業は2割強(23.9%)を占めた。生産地の変更内容を国・地域別にみると、主な変更対象としては、米国(38件)、日本(16件)、中国(14件)が多く、変更後の生産地としては、米国(20件)、ASEAN(17件)、メキシコ(16件)が上位に挙がった。中でも米国からメキシコ(11件)への変更が最多で、在米日系企業がコスト削減に向けて生産拠点の一部を移転している可能性もうかがえる。

(注1)調査実施期間は9月8~30日(日本時間)。調査対象は在米日系企業(製造業・非製造業)のうち、直接出資や間接出資を含めて、日本の親会社の出資比率が10%以上の企業および日本企業の支店の1,841社。有効回答数は787社(有効回答率42.7%)。調査は原則として年1回実施しており、米国では1981年以降これが41回目。

(注2)求人率=求人数/(雇用者数+求人数)。

(注3)採用率=採用数/雇用者数。

(葛西泰介)

(米国、日本)

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