レモンド米商務長官、対中競争で国内投資の重要性強調も中国とのデカップリングは「追求せず」

(米国、中国)

ニューヨーク発

2022年12月02日

米国のジーナ・レモンド商務長官は11月30日、米国ボストンのマサチューセッツ工科大学で中国との通商関係やバイデン政権の対中競争戦略について演説外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。

レモンド長官は演説の冒頭、米国によるこれまでの対中関与政策を振り返った。中国が米国の期待に沿うような政治的・経済的改革を行う計画がないことは明らかで、中国は社会・経済で国家の役割を増大させることに注力していると指摘した。また、中国は「経済・技術政策を軍事的な野心と融合させる取り組みを加速させている」と警戒感をあらわにした。その上で、中国経済が規模と影響力を増すにつれ、同国の非市場的な貿易・投資慣行も同様に増大し、米国は自国のビジネスと労働者を守らざるを得なくなっていると訴えた。

レモンド長官は米国が取るべき戦略として、(1)米国のイノベーションに革新的な投資を行う、(2)中国が米国の国家安全保障と国内的価値を損なうことを阻止するために米国の国力を増強する、(3)共通の価値を高め、中国を取り巻く戦略的な環境を形成するために新しい方法で同盟国と協力する、(4)米国の貿易・投資とそれに伴う利益を支持しつつも、気候変動や世界的なマクロ経済の安定などの国際的な課題に対処するために中国と協力するという4つの方針を示した。

(1)に関しては、中国との競争はグローバルな規模としつつも、米国の経済戦略は米国内から始まるとし、「米国の経済的競争力と国家安全保障は大胆な国内投資にかかっている」と述べた。バイデン政権下で成立したインフラ投資雇用法やCHIPSおよび科学法、インフレ削減法に言及し、これら法律に基づく投資は「現代の産業戦略」と強調した。半導体については、技術的競争力の出発点であり、米国の新たな投資戦略の中心と位置づけた。

(2)については、特に今後10年で重要となる技術として、量子コンピュータや人工知能(AI)を含むコンピュータ関連技術、バイオ技術・バイオ製造、クリーンエネルギー技術を挙げた。米国は「これらの基盤的技術での優位を守り、できるだけ多くのリードを維持するために行動し続ける」と主張した。そのための具体策には、輸出管理の強化や、投資審査体制の改善、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化を掲げた。輸出管理では、商務省が10月に発表した先端半導体などの対中輸出管理強化に触れた(2022年11月1日記事参照)。企業に向けては、10年前とは根本的に異なる戦略環境にいることを認識し、米国の経済・国家安全保障上の目的の実現のために政権と協力するよう呼びかけた。

(3)では、米国が主導する経済圏構想のインド太平洋経済枠組み(IPEF)により、インド太平洋地域で米国の経済的リーダーシップを再び主張していくと意気込んだ。(4)に関しては、ジョー・バイデン大統領と習近平国家主席による11月の首脳会談(2022年11月15日記事参照)に触れ、国際経済にとって重要な課題では中国と協力する意向を示した。レモンド長官は「中国経済と米国経済のデカップリングを追求しているわけではない」とも語り、米国の核となる経済・国家安全保障上の利益と人権の価値を脅かさない分野での貿易・投資の促進には前向きな姿勢を示した。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

ビジネス短信 1dd3bd4fb2a3b1e0