EU、男女間の賃金格差是正に向けた賃金透明化指令案に政治合意

(EU)

ブリュッセル発

2022年12月22日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は12月15日、男女間の賃金格差の是正に向けた賃金透明化指令案に政治合意したと発表した(EU理事会プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。この指令案は、欧州委員会が2021年3月に、持続可能な開発目標(SDGs、注)の一環として推進する「欧州社会権の柱」の実現のための行動計画(2021年3月5日記事参照)に基づいて提案したもの(2021年3月8日記事参照)。男女間の賃金格差を直接的に解消する措置は含まれていないものの、是正に向けたインセンティブを与えるために、賃金の透明性を高める一連の措置を雇用者に義務付けるとともに、賃金差別を受けた被雇用者の救済に向けた司法アクセスを改善する。指令案は、EU理事会と欧州議会による正式な採択の後に施行され、加盟国は施行から3年以内に国内法への置き換えを実施し、適用されることになる。なお、今回合意した指令案のテキストは12月21日時点では未発表だ。

今回の合意は、欧州委提案におおむね沿ったものだ。賃金の透明性の強化策については、雇用者には求職者への賃金水準の事前提示を義務付け、求職者に前職の賃金水準を質問することも禁止する。被雇用者は自身の賃金水準のほか、同一労働をする被雇用者の男女といったカテゴリー別の平均賃金水準に関する情報開示を雇用者に求めることができる。

男女間の賃金格差の公開義務については、欧州委提案から対象が大幅に拡大される。欧州委提案では、被雇用者が250人以上の雇用者を対象としていたが、EU理事会と欧州議会は対象について、被雇用者が100人以上の雇用者とすることで合意した。ただし、被雇用者数に応じで、公開頻度や適用開始時期に差異をつける。被雇用者が250人以上の雇用者は毎年、被雇用者が100人~249人の雇用者は3年ごとに男女間の賃金格差を公開することを求める。ただし、被雇用者が100人~149人までの雇用者に関しては、適用開始時期を遅らせ、加盟国法への置き換えから5年後に公開義務を課すことになる。また、公開により、正当化できない5%以上の男女間の賃金格差があることが明らかになった場合は、被雇用者の代表と協力して、格差是正に向けた賃金評価を実施することを義務付ける。

司法アクセスの改善に関しても、おおむね欧州委の提案に基づいた内容となっている。雇用者が透明性に関する義務を果たさない場合には、被雇用者ではなく雇用者が、賃金差別がないことについて立証責任を負うことや、賃金差別が認められた場合に被雇用者に補償をすること、加盟国は雇用者による義務違反に対して十分な抑止効果が期待できる罰金を設定することなどを規定している。

(注)EUのSDGs関連政策に関しては、2021年12月6日付地域・分析レポートを参照。

(吉沼啓介)

(EU)

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