欧州議会、エネルギー憲章条約からEU全体の脱退を求める決議採択

(EU)

ブリュッセル発

2022年11月28日

欧州議会は11月24日の本会議で、エネルギー憲章条約の近代化交渉の結果に関する決議PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を採択し、EU全体として同条約から脱退するための手続きに入るよう欧州委員会に求めた。

エネルギー憲章条約(1998年発効)はエネルギー分野の貿易自由化と投資保護に関する多国間条約で、EUとEU加盟国(イタリアを除く)や日本など53カ国・機関が参加している。投資保護ルールの見直しや気候変動対応といった課題を踏まえて、2020年7月から同条約の近代化(modernization)に向けた交渉が行われ(2020年7月15日記事参照)、交渉は2022年6月に実質合意に達した。しかしその後、ドイツ、フランス、スペイン、オランダ、ポーランド、スロベニア、ルクセンブルクの7カ国が、交渉結果がEUのグリーン政策の方向性に合致していないなどの理由で、それぞれ条約から脱退の意向を正式に表明しているほか、他のEU加盟国でも同様に脱退すべきとの意見も上がっている。11月22日には同条約の参加国・機関によるエネルギー憲章会議で、近代化交渉の結果に基づく条約改正案の採択を目指していたが、EUの全人口の7割に達するこれら7加盟国が脱退の意向を示していることから、EUは同会議での改正案採決の延期を求め、2023年4月の会議まで延期されることとなった。

投資家対国家紛争解決制度への不信感が背景に

今回の欧州議会の決議の背景には、エネルギー憲章条約に含まれる投資家対国家紛争解決(ISDS)制度に基づき、EU加盟国が企業に提訴される事案が後を絶たないことが挙げられる。同条約に基づくISDS提訴件数は同制度を有する世界の全ての投資協定・条約の中で最も多く、決議によると、その件数は150件以上に達し、うち70%がEU加盟国またはEUが提訴された事案だ。決議では「近代化交渉を経ても時代遅れの紛争解決制度が維持されたことは遺憾」とし、投資紛争はISDSに基づく仲裁ではなく、常設の多国間投資裁判所によって解決するべきだとして、裁判所制度の早期実現を求めた。エネルギー憲章条約には、脱退してもその参加国・機関は20年間はISDS紛争の対象となるというサンセット条項が含まれており、決議では「近代化交渉の結果、20年のサンセット条項が維持されることを懸念する」としている。

また、交渉後の改正条文では、既存の化石燃料投資が少なくとも10年間は条約に基づく投資保護の対象となり、かつ改正された条約の批准が遅れれば、化石燃料投資が保護される期間はさらに延長されることになるとし、パリ協定の温暖化抑制目標やEUの気候変動対策にも逆行するものだと批判した。

決議そのものは拘束力を持たないが、加盟国が条約脱退を相次いで表明する中、EUとして難しい判断を迫られている現状を浮き彫りにする証左となった。

(安田啓)

(EU)

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