車検制度導入に向けた公式規格の発効延期、廃止の動きも

(メキシコ)

メキシコ発

2022年10月31日

メキシコ経済省は10月28日、連邦官報で省令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公布し、全国的な車検制度導入に向けたメキシコ公式規格(NOM-236-SE-2021)の発効を12月1日まで延期した。同NOMは、車両総重量3,857キロ以下の自動車に対する物理的・機械的安全基準を定めるもので、総合的車検制度の全国的制定を視野に入れたものだ(2022年5月17日記事参照)。5月3日付官報で公示し、180日後の10月30日に発効するはずだった。経済省は発効延期の理由として、連邦・地方政府が現時点で具体的な車検プログラムを制定していないこともあり、車検を行うインフラが存在しないことを挙げている(省令前文)。

同NOMの廃止に向けた動きも進行している。経済省基準局は10月21日、品質インフラ法(LIC)第32条に基づく見直しの結果、NOM廃止を提言する報告書を経済省管轄規格策定国家諮問委員会に提出した。経済省の規格適合性評価統合システム(SINEC)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに掲載された同報告書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)によると、基準局はNOM廃止理由として、家計に悪影響を及ぼすことや、車検実施に必要なインフラの欠如、連邦政府や州政府による具体的な車検プログラムの未整備などを挙げているほか、2022年5月17日に公布された交通・道路安全一般法に基づいて通行車両の安全性確保を担う地方自治体政府は、自動車販売ディーラーなどが採用している任意技術規格(NMX-D-228-SCFI-2015)に基づき自主的に車検制度を導入することができるため、そもそもNOMは不要と結論付けている。

同NOMを巡っては、官報公示後の5月16日、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領が記者会見で、車検制度は市民に金銭的な負担を強いるとし、「民衆に悪影響を与える全ての政策は(大統領に)相談すべきだ」と語り、大統領が知らない内容のNOMが官報公示されたことに不快感を示した(大統領記者会見録5月16日付外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。その後、タティアナ・クルティエール前経済相は同NOMの意義を主張し、政府は車検制度から収入を得ることはなく、検査に必要な最低限の実費負担を求めるだけで、費用は高額にはならないと、さまざまな場で繰り返し主張してきた。今回、クルティエール前経済相の辞任(2022年10月11日記事参照)を機に、NOM廃止に向けた動きが急速に進み始めた。

ディーラー協会、NOM廃止への動きを憲法に反すると批判

車検制度導入によって検査に合格できない古い車の買い替えが進むとみられ、新車販売にとっては追い風になることが期待されていた。このため、自動車業界はNOM廃止に向けた動きに強く反発している。メキシコ自動車販売ディーラー協会(AMDA)は10月26日付でプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出し、LIC第10条XII項がNOMの保護すべき正当な公共利益の1つとして「交通安全」を挙げているにもかかわらず、管轄当局の経済省が交通安全確保のためのNOMを廃止することには矛盾があるとしている。AMDAのギジェルモ・ロサレス会長は、大統領の意向に従うための行動とみられる同NOM廃止は、LICに反するだけでなく、全ての人が交通安全が確保された条件下で移動できるという憲法(第4条)が定める権利にも違反すると主張している。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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