欧州テクノロジー業界、EUの重要な原材料確保に関する法案について提言

(EU)

ブリュッセル発

2022年11月30日

欧州機械・電気・電子・金属加工産業連盟(ORGALIM)は11月28日、重要な原材料の供給に関するEUレベルでの新たな取り組みに対する政策提言書を発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、9月に行った一般教書演説で重要な原材料の安定的な確保に向けた法案に言及し(2022年9月15日記事参照)、欧州委は、2023年に法案を提案する予定だ。ORGALIMは、原材料の確保は欧州テクノロジー業界にとって現在も喫緊の課題である(2022年11月24日記事参照)と同時に、EUのデジタル化、グリーン化推進へ向けたハイテクソリューションの提供には、特に重要な原材料について、将来にわたって安定した供給体制を確保することが必要だとした。そこで、EUに対して、法案策定にあたっての「優先事項」として以下の提言を行った。

(1)自由貿易協定(FTA)の締結などを通じて供給元の多元化を目指すと同時に、米国など志を同じくする(like-minded)国・地域との関係深化や、中国と過度に依存しない、安定した通商関係の維持も図る。

(2)2023年に改定されるEUの「重要な原材料一覧」(2020年9月4日記事添付資料参照)に、アルミニウム、銅、ニッケル、高純度マンガンなどを新たに加える。また、長期的な需要増大も見越して、グリーン化・デジタル化の加速に必要不可欠となる優先度が高い原材料群のカテゴリーを新たに設け、ホウ酸塩、コバルト、リチウムといった原材料をそのカテゴリーに分類し、原材料確保に係る将来的な政策課題がより明確な一覧とする。

(3)再利用が可能な原材料の回収、分別とリサイクルができる仕組みを欧州全域で発展させ、また研究開発を奨励することで、リサイクル原材料の供給を増やす。リサイクル原材料の活用を促すため、エコデザイン規則案で提案された「デジタル製品パスポート」(2022年4月4日記事参照)などの活用法を検討する。

(4)重要な原材料の採掘、加工、精製、リサイクルに関する事業の許認可プロセスを合理化、迅速化し、また、1992年に発効した「生息地指令」といった関連する環境規制の見直しを行って、欧州での原材料確保を促進する。

EUによる過度の規制を強く警戒、審議中の法案についても言及

ORGALIMは、欧州での原材料確保の重要性を指摘しながらも、民間投資を減退させるようなEUや加盟国による過度のサプライチェーンへの介入、その結果として単一市場への歪曲(わいきょく)効果が生じうるとの警戒感を示した。また、いくつかの原材料について、現実的ではない域内生産目標を設定することに懐疑的であり、EUはできる限りEU域外の供給元を増やす努力をすべきだともくぎを刺した。さらに、産業界に重要な原材料の戦略的な備蓄や再分配を義務付けることなど、企業にとって実行が困難で、重要な原材料バリューチェーンへの民間投資を阻害するような規定を設けることに反対するとした。

政策提言書ではまた、企業持続可能性デューディリジェンス指令案(2022年2月28日記事参照)や強制労働製品の域内流通を禁止する規則案(2022年9月16日記事参照)は、中小企業を中心に大きな負担となり、重要な原材料のバリューチェーンへの投資が冷え込む可能性や企業の調達に悪影響が出る恐れを指摘した。鉄鋼やアルミニウムについても、炭素国境調整メカニズムの設置規則案(2021年7月16日記事参照)によって、将来的により安価な調達が不可能となり、欧州企業の国際競争力の喪失が危惧されるとした。また、2024年6月末を期限として実施されている鉄鋼セーフガード措置(2021年7月5日記事参照)の撤廃も求めた。

(滝澤祥子)

(EU)

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