欧州委、強制労働製品のEU域内での流通を禁止する規則案を発表

(EU)

ブリュッセル発

2022年09月16日

欧州委員会は9月15日、強制労働により生産された製品のEU域内での流通を禁止する規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。EUでは、サプライチェーンにおける強制労働などの人権侵害の根絶に向けた規制を強化しており、欧州委は既に、強制労働に関与するリスクに対処するためのデューディリジェンスに関するガイダンス(2021年7月15日記事参照)や、一定以上の規模の企業に対して、人権を含めた持続可能性に関するデューディリジェンスの実施を義務付ける指令案(2022年2月28日記事参照)を発表している。

今回の規則案は、強制労働により生産された製品をEU市場に流通させること、またEUから域外に輸出することを禁止することを目的としている。規制の対象となるのは、EU市場に製品を流通させる、あるいはEU域外に輸出する、中小企業を含むあらゆる事業者だ。また、禁止の対象となるのは、採掘、収穫、生産、製造などサプライチェーンのいずれかの段階において、部分的にあるいは全面的に強制労働が用いられた製品だ。つまり、規則案は、あらゆる規模の企業を一律に対象とし、強制労働により生産された原材料が一部でも使用された製品のEU市場での流通・域外への輸出を全面的に禁止する包括的な内容となっている。

規則案を実施する上で、中心的な役割を果たすのは、各加盟国が指定した当局だ。強制労働の関与が疑われる製品がある場合、加盟国当局は初期調査を実施する。その上で、禁止規定の違反を疑うに足る十分な裏付けがあると判断した場合、正式な調査を実施する。この調査により、加盟国当局が禁止規定の違反があると判断した場合、加盟国当局は当該製品のEU市場での流通・EUからの輸出を禁止するとともに、調査対象となっている企業に対して、当該製品のEU市場からの回収および処分を命ずる決定を下す。また、当該企業がこれらの命令に違反した場合、加盟国法に基づき罰金が科される。

規則案では、加盟国当局は調査を実施するに当たって、リスクに基づくアプローチを採用している。加盟国当局は、バリューチェーンにおいて強制労働リスクが発生しやすい段階に最も近い企業に対する調査に注力することが求められる。また、疑われる強制労働の規模だけでなく、中小企業など、調査対象となる企業の規模なども考慮する必要がある。初期調査および正式な調査の各段階において、調査対象企業は、加盟国当局に対する情報提供などの協力が求められる。加盟国当局は、正式な調査の段階では、域外国での調査を含む、同意に基づく実地調査を実施することができ、調査対象企業から提供された情報のほかに、市民社会など第三者から提供された情報など、入手可能なあらゆる情報を調査する。なお、調査対象企業や域外国の当局の非協力などにより、必要な情報をすべて収集できない場合であっても、加盟国当局は入手した情報に基づいて決定を下すことができる。

また、規則案に基づき、加盟国当局の調査などに活用すべく、外部専門家により強制労働リスクに関するデータベースが作成される。欧州委も、強制労働に関するデューディリジェンスについての指針や、国際機関などの報告書などに基づく強制労働のリスク指標を含む、新たなガイダンスを策定する。

国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が8月31日に中国の新疆ウイグル自治区の人権状況に関する報告書を発表しているが(2022年9月5日記事参照)、欧州委は、規則案に関して、特定の国や地域における強制労働を対象にしたものでなく、あくまでも全世界のあらゆる強制労働を対象にしているとした。一方で、強制労働リスクに関するデータベースには、国家当局による強制労働など、強制労働リスクの高い特定の地域や製品に関する情報を含めるとしていることから、リスクに基づくアプローチにおいて、データベースに掲載される、特定の地域で生産された原材料を含む製品が、特に調査の対象になるとみられる。

規則案は今後、EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会で審議される。

(吉沼啓介)

(EU)

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