EU、土地利用・土地利用変化と林業規則の目標強化に合意

(EU)

欧州ロシアCIS課

2022年11月15日

EU理事会(閣僚理事会)と欧州議会は11月11日、土地利用・土地利用変化と林業(LULUCF)規則の改正について暫定合意に達した(EU理事会の発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます欧州議会の発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。現行規則は2018年に採択され、2021~2030年の土地と森林、バイオマスなどの管理の結果、発生する温室効果ガス(GHG)〔二酸化炭素(CO2)、メタン、一酸化二窒素(N2O)〕の排出と吸収に関して規定しており、加盟国に対して、対象部門(土壌、森林、植物、バイオマス、木材)からのGHG排出を吸収することを義務付けている。欧州委員会は、2021年7月14日に発表した2030年のGHG削減目標「1990年比で少なくとも55%削減」を達成するための気候政策パッケージ「Fit for 55」の1つとして、LULUCF規則の改正も提案していた(2021年7月15日記事参照、注1)。暫定合意は概ね欧州委案を維持する内容となった。

改正案では、2025 年までは現行と同じ、排出量が吸収量を超過しないというルールを継続するが、2026~2030年にはGHG吸収を強化し、2030年までに対象部門の年間のGHG吸収量がEU全体で3億1,000万CO2換算トン以上、排出量を上回ることを目標として新たに定めた。これは現行の目標を約15%上回る水準となる。同目標の達成に向けて、加盟国には排出削減を分担する拘束力ある国別目標を課し、炭素吸収源(カーボン・シンク)を拡大することを求める。

さらに、改正案では、加盟国の進捗状況をより正確に把握すべく、地理データやリモートセンシング(注2)などを活用して、排出と吸収の報告・確認ができるように改善した。また、目標達成に向けて加盟国間で余剰分の吸収量を購入することを認めることや、自然に起因する障害(火災、害虫、気候変動や土壌による影響)によって国別目標の達成が難しい加盟国を支援するための柔軟性メカニズムについては、現行の制度を維持した。ただし、改正案では、加盟国の柔軟性メカニズムの利用基準を厳格化したほか、2026年以降の国別目標値を達成しなかった加盟国に対する措置を含むガバナンスメカニズムを導入する。

同規則の対象に農業分野からのCO2以外のGHG排出を含めることや、土地利用分野の2031年以降の目標設定に関しては、2023年に開催が予定されているパリ協定の第1回グローバル・ストックテーク(注3)から半年以内に欧州委がEU理事会と欧州議会に報告書を提出する。

今回の暫定合意を受けて、同規則の改正案は今後、EU理事会と欧州議会での正式な採択を経て、EU官報への掲載後、発効する。なお、暫定合意のテキストは11月14日時点では公表されていない。

(注1)調査レポート『欧州グリーン・ディール』の最新動向(第1回)政策パッケージ「Fit for 55」の概要と気候・エネルギー目標(2021年12月)参照。

(注2)人工衛星や航空機などを用いて、遠隔地から観測する技術。

(注3)パリ協定第14条に規定された、同協定の目的や長期目標と比較して、世界全体の温暖化対策の進捗状況について、5年ごとに評価するための制度。

(土屋朋美)

(EU)

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