蔡英文総統、双十節式典で台湾の自由民主の尊重と経済・社会の強靭化を呼びかけ

(台湾)

中国北アジア課

2022年10月12日

台湾の蔡英文総統は、10月10日に開催された双十節の祝賀式典において、各国代表の表敬訪問に応じるとともに、スピーチを行った(注1)。海外からは、パラオのスランゲル・S・ウィップス・ジュニア大統領や、米国のエディー・バーニース・ジョンソン下院議員をはじめ、150人超の来賓が参加した。日本からは、古屋圭司衆議院議員を団長とする超党派の日華議員懇談会のメンバー約20人が訪台し、式典およびパレードに加わった。

蔡総統はスピーチにおいて、両岸政策については前年の同式典で表明した「4つの堅持」(注2)の立場を維持すると表明。また、「武力衝突は絶対に両岸が取るべき選択ではない」と強調し、台湾人民の民主と自由を尊重するよう中国政府に呼びかけた。さらに、双方の水際対策の緩和後には、両岸人民の交流が徐々に回復し、緊張が緩和に向かうことに期待を示した。

このほか、蔡総統は、台湾の強靭(きょうじん)性(レジリエンス)をさらに高めるべく、上述の「4つの堅持」に加え、経済産業、社会安全、民主自由体制、国防戦力における「四大強靭性」を打ち立てる必要があるとした。「四大強靭性」の各項目のポイントは以下のとおり。

  1. 経済産業:インフレを抑え、経済を安定させる。そのために、水、電気、石油、天然ガスおよび生産活動に必要な原材料の価格を安定させるほか、金融市場の価格変動に応じた安定メカニズムの強化、公共支出によるインフラ整備や、人材育成および就業機会の提供などを通じて、域内経済への打撃を抑える。「六大核心戦略産業」(注3)の発展を加速するほか、半導体産業の優位性を確固たるものとする。半導体の生産能力が台湾に集積していることはリスクではない。先端半導体製造の優位性を維持し、再編が進む世界の半導体サプライチェーンにおいても台湾は世界と協力して重要な地位を担っていく。気候変動については、2022年3月に「2050年ネットゼロ排出ロードマップ」(2022年5月19日付地域・分析レポート参照)を発表したほか、現在、立法院で審議中である気候変動対応法(気候変遷因応法)改正などを通じて、世界と歩調を合わせて対応する。
  2. 社会安全:医療費、子供手当を増額し、少子高齢化社会への対応を強化する。2022年の社会保障関連予算は6,000億台湾元(約2兆7,600億円、1台湾元=約4.6円)のところ、2023年は過去最高額の7,000億台湾元に引き上げる。
  3. 民主自由体制:情報の透明性や、フェイクニュースに対する監督システムを強化し、情報戦における脅威に対応する。また、この分野について、国際社会との協力および民主主義の国々との連携を引き続き深化させる。
  4. 防衛戦力:防衛予算を増額し、軍艦などの武器の自主開発に取り組むほか、全民防衛動員署を設け、予備役兵への訓練および装備を強化する。
写真 スピーチする蔡英文総統(日本台湾交流協会台北事務所提供)

スピーチする蔡英文総統(日本台湾交流協会台北事務所提供)

(注1)スピーチの全文は総統府のウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますから閲覧できる。

(注2)自由で民主的な憲政体制を堅持、台湾と中国が互いに隷属していないことを堅持、主権の侵犯と併呑は許さないことを堅持、台湾の前途は全ての台湾人民の意思に従うことを堅持、の4つを指す。

(注3)蔡英文総統2期目就任時の2020年5月に打ち出された重点産業政策。IoT・AI、情報セキュリティー、バイオ・医療、防衛、グリーンエネルギー、戦略的備蓄(マスク、医薬品など)の6業種を対象としている。

(江田真由美)

(台湾)

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