欧州自動車工業会、2022年の新車販売台数予測を下方修正

(EU、英国)

ブリュッセル発

2022年10月11日

欧州自動車工業会(ACEA)は10月7日、2022年の乗用車の新車販売台数は約960万台(前年比1%減)との新たな予測を示した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。3年連続で前年を下回り、新型コロナウイルス感染拡大以前の2019年と比較すると約340万台も減少(26%減)という極めて厳しい見通しとなった。ACEAは2月には2022年の新車登録台数を約1,050万台(前年比7.9%増)と予測していたが、2021年7月以降、登録台数が前年同月を下回る月が続いていた(2022年8月5日付地域・分析レポート参照)。2022年8月は、2022年に入って初めて前年同月を上回った(4.4%増)が、2020年から続く部品の供給不足に伴い、生産台数も減少している。今後はこうした供給要因に加え、加速するインフレや景気後退への懸念から、新車需要も低迷する恐れがあるとした。

ACEAは、販売不振、インフレやエネルギー価格の高騰といった逆風の中でも、自動車業界は研究開発、グリーン化・デジタル化へ向けた従業員のスキル向上や技術開発に投資を続けているとして、脱炭素化の推進や成長回帰に向けて「適切な政策枠組みが必要」と主張。欧州のサプライチェーンのレジリエンス強化と、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が2022年9月に行った一般教書演説で挙げた、特定の域外国への重要な原材料の供給依存の軽減に向けた立法(2022年9月15日記事参照)や、代替燃料インフラ整備の加速に向けて、政策立案者の一層の取り組みが必要だと訴えた。

欧州エネルギー危機はアジア勢にはチャンスとの見方も

エネルギー価格の高騰は、欧州で生産する自動車メーカーにとっては喫緊の課題だ。西欧18カ国(注)の電気自動車(EV)市場を専門とするドイツのシュミット自動車リサーチ(以下、シュミット)によると、英国では部品メーカーを含め、業界全体でエネルギーコストがここ1年間で1億ポンド(約161億円、1ポンド=約161円)以上も増大したほか、2022年3月に欧州初となるドイツ工場を開所したテスラにも、エネルギー価格の高騰の影響は、この冬にかけて、欧州での生産に大きくのしかかってくるとみられる。

一方で、シュミットは、欧州エネルギー危機がアジアのメーカーにとってチャンスとなる可能性があると分析している。例えば、日本、韓国勢は、欧州と比較してエネルギーコストが抑えられており、またEUとの自由貿易協定(FTA)の恩恵を最大限に生かして輸出を強化できる。また、中国からEU向けの乗用車には10%の関税がかかるものの、国内でもEV市場が拡大し続けており、エネルギー価格も欧州に比べて低いことから、生産コストを抑えることで、輸出競争力を高めることができる。さらに、ベトナム初のEVメーカーであるビンファストも欧州での参入機会をつかむ可能性があるとした。シュミットは、欧州で大規模な販売網を確立していない中国メーカーやビンファストといった新興メーカーにとっては、欧州での販売拡大に向けて、ディーラー販売店の確保がこれまで以上に重要になってきているとも指摘している。

(注)EU14カ国(ベルギー、ドイツ、フランス、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、デンマーク、アイルランド、ギリシア、スペイン、ポルトガル、オーストリア、フィンランド、スウェーデン)と、ノルウェー、アイスランド、スイス、英国の計18カ国。

(滝澤祥子)

(EU、英国)

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