連邦議会選で大統領選の2候補所属政党が躍進、新政権は議会の協力取り付けが課題に

(ブラジル)

サンパウロ発

2022年10月14日

ブラジルで10月2日の大統領選挙と同時に連邦議会選挙が行われた(添付資料表1、2参照)。大統領選で得票率が2番目だった現職のジャイール・ボルソナーロ氏が所属する自由党(PL)は下院での議席数をこれまでの76議席から23議席を増やして99議席とした。下院定数の19.3%に相当する。大統領選で最も得票率が高かったルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ元大統領が所属する労働者党(PT)は、連立を表明しているブラジル共産党(PCdoB)と緑の党(PV)の議席数と合わせて68議席から12議席増やして80議席を獲得した。下院議席数全体の15.6%に相当する。

10月4日付現地紙「エスタード」は、下院で現職のボルソナーロ大統領に近いとされる政党は計240議席(注1)、ルーラ元大統領のPTに近いとされる政党は計122議席(注2)、その他が151議席と報じている。

なお、任期8年で全体の3分の1の27議席が改選となった上院では、PLが6議席、PTが2議席それぞれ増やして、両党が全体議席に占める割合はそれぞれ17.3%、11.1%となっている。マクロ経済分析などを行うコンサルティング会社MBアソシアドスのセルジオ・バレ経済部長はこの結果を踏まえ、10月30日に行われる大統領選の決選投票でルーラ候補が勝利した場合には、法案可決のために厳しい財政規律を考慮しながら、議会内の協力を取り付ける必要があると述べている。ボルソナーロ候補が勝利した場合でも、例えば、既に現政府が取り組んできた税制改革は今後も部分的な改革にとどまるリスクがあると分析した。経済省が2021年に下院議会に提出した税制改革法案(法案2337)を見ると、現在非課税となっている配当に対して新たに15%を課税する配当税の導入などが一部業界から嫌悪された上、上院で法案に対する抵抗が根強く、可決されなかった経緯があるためだ。ただ、アルトゥール・リラ下院議長は「大統領選挙の結果にかかわらず、税制は改善の余地がある」と発言しており、行政改革と合わせて2023年初から改革を進めたい意向を示し、下院議会による諸改革への意欲は消えていない。(10月4日付現地紙「バンジ」)。

ボルソナーロ候補とルーラ候補のマニフェストで、政策の違いが明確な国営企業の民営化に関し(2022年7月5日記事2022年8月30日記事参照)、経済や金融分野のコンサルティングを行うテンデンシア・コンスルトリアのエコノミストのアレッサンドラ・ヒベイロ氏は「国営石油会社ペトロブラスの民営化は難しい案件になる」と述べている(10月4日付現地紙「エスタード」)。その理由として、ボルソナーロ現政権がペトロブラスの民営化を試みた際、同社がブラジルを象徴する最大の企業のため、石油業界や、独禁調査の経済防衛行政審議会(CADE)、連邦会計検査院(TCU)などの厳しい評価が待ち受けていると報じている(5月13日付「バロール」)。一方で、ヒベイロ氏は郵政民営化について、議会との協力によるチャンスがあると述べている(10月4日付現地紙「エスタード」)。郵政民営化について経済学者のアルバロ・バンデイラ氏は、ブラジル郵政の規模がペトロブラスなどと比べて小さいことにより、そのチャンスがあると分析している(6月14日付「バロール」)。

ブラジルの企業規模をランキング付けした現地紙「バロール」が発行する「グランジス・グルーポス 2021」によると、ペトロブラスは純収入で首位、ブラジル郵政はランク入りしていない。両国営企業の規模を比較するため、両社が公開している2021年の純利益を比較したところ、ペトロブラスは1,067億レアル(約2兆9,555億9,000万円、1レアル=約27.7円)に対し、ブラジル郵政は過去最高として23億レアルとなっている。

(注1)自由党(PL)、進歩党(PP)、社会民主党(PSD)、共和党(Republicanos)、PSC(キリスト教社会党)、Patriota(パトリオット)、PTB(ブラジル労働党)が、ボルソナーロ候補に近いとされている

(注2)労働者党/ブラジル共産党/緑の党(PT/PCdoB/PV)、ブラジル社会党(PSB)、社会主義自由党/持続可能性ネットワーク(PSOL/Rede)、フォワード(Avante)、連帯(SD)、社会秩序共和党(Pros)がルーラ候補に近いとされている。ただ、各政党による議会での連立は流動的で、かつ法案の内容により各党の方針は変化し、各議員の動きも党の多数派と異なるケースは留意する必要がある。

(古木勇生)

(ブラジル)

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