EUと労使団体の対話開催、エネルギー危機への対応や労働者支援を要請

(EU)

ブリュッセル発

2022年10月21日

EU諸機関と労使団体の代表が集まる2022年の「三者社会サミット(Tripartite Social Summit)」が10月19日に開催され、「ロシアによるウクライナ侵攻の影響」や「エネルギー危機への対応」「生活費高騰への対応」について話し合われた。

出席したビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)のマークス・バイラー事務総長は「EUは欧州企業に壊滅的な影響を与えているエネルギー価格高騰の影響緩和に向けて、EUレベルで速やかな対応を取るべきだ」と訴えた(バイラー氏のスピーチ全文PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます))。バイラー氏は、EUはエネルギー集約型産業を中心に、産業の空洞化という「危機」に直面しており、域外への依存の増大や、欧州企業の競争力低下、雇用喪失が起きると警告した。ガス共同購入などEUで検討している対策(2022年10月20日記事参照)の幾つかは「正しい方向」にあるが、より大胆な対応が必要だと主張。さらなる生産減少を防ぐため、緊急対応として、次の4つの対応を早期に実施することを求めた。

  1. 単一市場での公正な競争を維持しながら、加盟国がエネルギー危機の影響を受けた企業を支援できるように、EUの国家補助規制枠組みを一時的に調整する。
  2. 電力価格とガス価格のデカップリング(分離)に向けて、EUレベルの一時的な措置を速やかに検討する。
  3. 域外の供給元との交渉をさらに進める、また、あらゆるエネルギー源を最大限に活用することで、欧州のエネルギー供給を増加させる。
  4. エネルギー市場の正常化や、企業の脱炭素関連投資を刺激する市場環境作りに向けて、脱炭素化への努力は継続する。

このほか、欧州委員会がウクライナ避難民のEUでの就職支援に関する取り組みを試験的に始めたことを支持するが、必要な人材が不足する企業側にとっては不十分で、他の国・地域の出身者を対象とした取り組みも早期に行うべきだとした。また、グリーン化とデジタル化へ向けた労働者のスキルアップや、人手不足に悩む産業部門の労働者の円滑な域内移動に取り組むことや、度重なる危機への対応に追われる企業の負担となる規制の緩和なども必要だとした。

中小企業団体、労働者のスキルアップが可能な働き方も提案

欧州中小企業連合会(SMEunited)のペトリ・サルミネン会頭も、エネルギー価格高騰に伴って減産や生産の一時停止に追い込まれている中小企業があるとして、危機への対処を求めた(SMEunitedプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。また、EUはエネルギー供給を増やして価格を下げると同時に、エネルギー移行を進めるために、財源が乏しい企業でも先行投資が行えるように支援すべきだとした。エネルギー市場介入策については、想定外のエネルギー需要の増加を起こさず、確実に供給を安定させる方法で行うならば、EUが取るべき道だと述べた。

生活費の高騰については、賃金・物価スパイラルを回避するために、労使間で責任を持って賃金交渉をする必要があるとした。また、例えば、破産せざるを得なくなった企業家に新たなキャリア設計に関する指導を行うなど、経済的に困難な企業家への支援に加盟国が取り組むことや、デジタル化、グリーン化へ向けた労働者の技能向上のため、アップスキリングやリスキリング(注)の機会を取り入れ、短時間労働を可能とする働き方を提言した。

(注)アップスキリング(up-skilling)は、現在の業務の延長線上で能力の向上を図ること。リスキリング(re-skilling)は、デジタル化などにより産業構造が変わる中で、職種転換も見据えて新たなスキルを習得すること。

(滝澤祥子)

(EU)

ビジネス短信 0b2a3877adeaeeff