米テラパワー、次世代原子炉向けウラン燃料の国内サプライチェーン構築を提唱
(米国、ロシア)
ヒューストン発
2022年08月15日
米国・マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が設立した原子力の主要技術革新企業テラパワー(本社:ワシントン州ベルビュー)は8月12日、次世代原子炉の商用化に向け、米国内の高純度低濃縮ウラン(High-Assay Low-Enriched Uranium、以下HALEU)(注1)のサプライチェーン構築が必要と発表した。
ナトリウム冷却型高速原子炉と溶融塩エネルギー貯蔵システムを含む、米国で開発中のほぼ全ての次世代原子炉は、HALEU燃料に依存しているとされている。HALEUを燃料とする次世代原子炉は、現在の原子炉に比べ極めて高い環境性能と効率を備えているのがメリットだという。
一方、同社によると、次世代原子炉の商用化に向けた課題は、燃料であるHALEUの米国内サプライチェーン(注2)が存在しないことにあるという。その上、現在、米国で稼働中の90基以上の原子炉の稼働に必要なウラン燃料の大部分が、ロシアとその同盟国に依存している状況であることから、同社は、ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、ロシア産ウランへの依存から脱却し、HALEUの米国内サプライチェーンを早急に構築することが必要だと訴えている。
米国連邦議会もHALEUの後押しに動き始めている。2022年初め、国内でのHALEUの商用化を促進するため、次世代核燃料利用プログラムに4,500万ドルを計上した。また、下院で8月12日に可決し、大統領による署名待ちのインフレ削減法案(2022年8月15日記事参照)には、HALEUのための特別条項が盛り込まれている。これには、研究用と商用の両方のHALEUの利用可能性、生産施設の認可、HALEU備蓄の確立を支援するために7億ドルが確保されている。
テラパワーは、カーボンフリー達成には次世代原子力技術が不可欠で、2030年代以降の次世代原子炉の完全商用化を実現するには、新しい原子炉を今後10年で実証する必要があるとしている。
同社は2021年6月2日、投資家のウォーレン・バフェット氏が所有する電力会社パシフィコープ(本社:オレゴン州ポートランド)、およびマーク・ゴードン・ワイオミング州知事と共に、ワイオミング州に次世代原子炉の実証プラントを建設すると発表している(2021年6月9日記事参照)。
(注1)高純度低濃縮ウラン(HALEU)は、U235(ウラン同位体の1つで広く原子力発電に利用される)の濃度が5~20%のものを指す。
(注2)本サプライチェーンには、ウランの採掘・転換・濃縮、原子炉に電力を供給する燃料棒の製造が含まれる。
(沖本憲司)
(米国、ロシア)
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