米インディアナ州で成立の人工妊娠中絶制限法に州内の大企業が反対表明

(米国)

シカゴ発

2022年08月12日

米国インディアナ州で人工妊娠中絶を大幅に制限する州法が85日に新たに成立したことを受け、同州に本社を置く大手製薬会社イーライリリーは翌6日、州外での雇用拡大を計画せざるを得なくなるとの声明を発表した。同じく同州に本社を置く大手エンジンメーカーのカミンズも同日、この州法に反対の立場を表明し、同社の価値観と合致したコミュニティーで事業を拡大することに重点を置いていることから、「この州法は、われわれの意思決定で考慮されるだろう」と述べた。両社ともインディアナ州を拠点とするグローバル企業で、州内でそれぞれ約1万人の従業員を抱える州の最大級の雇用主だ。同州での事業の見直しを始める企業が今後増加すれば、州の雇用と経済に影響が出る可能性もある。

米メディアによると、今回の州法は、20226月に連邦最高裁判所が中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を破棄(2022年6月27日記事参照)して以来、全米で初めて成立したもので、915日に施行される。同州法では、妊婦の生命に危険が及ぶ場合や性的暴行、胎児の致死的な異常がある場合など例外が認められているものの、このような場合の中絶を行うためには複雑な手続きが必要だ。

中絶の権利への企業の姿勢が問われる

企業移転の支援を手掛ける企業関係者は、米国でESG(環境・社会・ガバナンス)を企業ブランドや採用戦略として重視する企業が中絶の権利を重要な問題として考慮するようになるとみている。特にライフサイエンス関連企業は女性の生殖医療へのアクセスに敏感だとし、今回のイーライリリーによる発表は、今後の企業の動きの予兆となるという。アップルや、マイクロソフト、メタ、ディズニー、JPモルガンチェイスなどのように、中絶を認めている州で手術を受ける場合の渡航費用を会社が福利厚生の一部として補填(ほてん)すると既に表明している企業もある。

中絶を制限する州からの企業誘致に関して、インディアナ州に隣接するイリノイ州のJ.B.プリツカー州知事(民主党)は積極的だ。知事はイーライリリーの発表を受けて、「インディアナ州で中絶制限法の影響を受けている企業には連絡を既に取っている」とし、「イリノイ州で事業拡大を検討している企業を歓迎する。われわれは従業員個人の権利と家族の権利を保護する」と述べた。

(星野香織)

(米国)

ビジネス短信 a246c64077647836