英政府、農業食品の遺伝子編集研究促進に向け法案提出
(英国)
ロンドン発
2022年06月01日
英国政府は、5月25日、耐性力、栄養価、生産性がより高い作物を育てるにあたっての事務手続きを削減し、革新的な技術の開発を支援する「遺伝子工学(精密育種)法案」の議会への提出を発表した。
今回の法案は、EU離脱(ブレグジット)を背景に遺伝子編集に関するEU規制から脱却し、新たな遺伝子編集技術の研究に対する障壁を取り除くものとされている(2021年4月21日付地域・分析レポート参照)。これにより、精密育種を行った動植物の開発・販売が可能となり、農業食品の研究・イノベーションへの投資誘致につながるとしている。
他の生物から新たに遺伝子を導入する遺伝子組み換えと異なり、遺伝子編集は作物自身の特定の遺伝子を変異させる。遺伝子編集などの精密育種技術により、農薬や肥料の少ない作物生産など、有益な形質を持つ動植物品種を効率的かつ正確な方法で開発できるとしている。これにより、英国の食料システムの持続可能性、レジリエンス、生産性を向上させるねらいだ。さらに、環境負荷の低減や、動植物の耐病性の向上のほか、水不足などの気候変動問題への対応などにもつながるとしている。また、アレルゲンの除去などより安全な食品の生産も可能となるとしている。
ビタミンDの豊富なトマトを開発、健康問題解消への貢献目指す
英国のノリッジに拠点を置く植物科学の研究所ジョン・イネス・センターは5月23日、遺伝子編集技術を用いて、トマトの葉と果実でビタミンDを大量に増やすことに成功したことを発表した。世界で10億人以上が、ビタミンDが欠乏していると推定されており、同センターは今回のプロジェクトを通じてこうした世界的な健康問題に対処できるとした。遺伝子編集作物の実地実験に関する規制はすでに緩和されており、同研究所は今夏から同トマトを野外で栽培する予定としている(「フィナンシャル・タイムズ」紙5月23日)。
(オステンドルフ・七海・ありさ)
(英国)
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