UNCTAD、2022年の世界の直接投資額は減少か横ばいを見込む

(世界)

国際経済課

2022年06月13日

国連貿易開発会議(UNCTAD)が6月9日に発表した報告書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、2021年の世界の対内直接投資額は前年比64.3%増の1兆5,823億ドルだった。各国・地域の金融緩和や大規模なインフラ刺激策を背景に、クロスボーダーM&Aと国際プロジェクトファイナンスが急拡大し、新型コロナウイルスのパンデミック前の2019年(1兆4,806億ドル)を上回る水準へ回復した。しかし、足元で先行きの不確実性が増す中、2021年の投資回復の勢いは弱まっている。2022年の世界の対内直接投資は減少基調にあり、最善のシナリオでも横ばいを見込んでいる。

2021年の世界の対内直接投資額を分野別にみると、2021年のグリーンフィールド投資件数は11.0%増(1万4,710件)と回復が鈍い一方、国際プロジェクトファイナンス件数は67.6%増(2,115件)、クロスボーダーM&Aは42.7%増(8,846件)と順調に推移した。グリーンフィールド投資については、多国籍企業による海外での生産分野への新規投資意欲が依然弱く、最大のボトルネックとされる。2021年に比較的好調だったのは、半導体など電子・電気機器産業や自動車産業への投資だった。2021年以降、2022年5月末までに発表されたグリーンフィールド投資案件のうち、投資額トップの2件はいずれも半導体産業で、インテル(米国)によるドイツ東部マグデブルクへの工場新設(2022年3月24日記事参照)と、サムスン(韓国)による米国テキサス州での工場新設(2021年11月24日記事参照)に関する案件だった。

国際プロジェクトファイナンス件数では、全体の半数以上を占める再生可能エネルギー産業が48.8%増と牽引した。再生可能エネルギー産業の国際プロジェクトファイナンスとしては、100憶ドル以上の大型案件が6件含まれている。

世界のクロスボーダーM&A総額は53.3%増の7,280憶ドル、うち情報通信をはじめとするサービス業へのM&Aが前年から倍増して4,610憶ドルとなった。一方、製造業に対するM&Aは4.8%増にとどまった。

UNCTADは2022年の見通しについて、長引く新型コロナウイルス感染症の影響に加え、ウクライナ情勢により世界各地で食料・燃料・金融引き締めというトリプル危機に直面して不確実性が増大しており、世界の対内直接投資に対し大きな減速圧力になり得ると指摘した。また、中国など世界のグローバルバリューチェーンの集約地域で都市封鎖が再び実施されたことにより、産業向け新規グリーンフィル―ルド投資が抑制される可能性や、主要国の金利上昇がクロスボーダーM&Aと国際プロジェクトファイナンスの減速につながる可能性もある。新規プロジェクトに対する投資活動をみると、2022年第1四半期(1~3月)のグリーンフィールドプロジェクト件数は前年の四半期平均を21%下回り、国際プロジェクトファイナンス案件数は同4%減少するなど、既に一部で投資家のリスク回避傾向が顕在化している。

(森詩織)

(世界)

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