産業界、欧州議会採決を前に気候関連新規則案への懸念をあらためて表明

(EU)

ブリュッセル発

2022年06月02日

欧州議会では6月6日からストラスブールで開催される本会議にて、欧州委員会が2021年7月に提案したEU排出量取引制度(EU ETS)の改正、炭素国境調整メカニズム(CBAM)、乗用車および小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準などに係る規則案(2021年7月15日記事参照、注)などについて採決が行われる。それに先立ち、欧州産業界からはあらためて懸念や不満が示されている。

欧州鉄鋼連盟(EUROFER)は5月31日、欧州議会およびEU理事会(閣僚理事会)に対して、主要鉄鋼メーカーCEO(最高経営責任者)などとともにETS改正およびCBAM導入への懸念を表明する公開書簡を送付した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。書簡では2050年までに鉄鋼生産においても気候中立を実現するため、鉄鋼業界が大規模な投資を行おうとする中、ETS改正案やCBAM導入案はこうした投資を骨抜きにし、グリーン鉄鋼(生産過程で発生するCO2が極めて少ない鉄鋼)への移行を阻むものだと主張。特に、ETS改正によって排出削減目標を大幅に引き上げる一方で、CBAM導入に伴い、無償排出枠を2026年から段階的に廃止すると提案されている点に不満を示した。そこで、CBAMがカーボンリーケージ対策として有効だと立証されるまでは、現行の対策を継続することや、少なくとも新たな低炭素技術が実用化される初期段階においては、排出削減目標のベンチマークの見直しに伴う既存の施設への無償排出枠の割り当て削減をより緩やかにすべきだと主張した。

ETS改正とCBAM導入については、ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)も同様に5月17日、同日の欧州議会の環境・公衆衛生・食品安全委員会(ENVI)による同委員会としての修正案の採決後、欧州産業界の競争力が低下すると強い懸念を示している(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。同連盟は欧州産業界が記録的なエネルギー価格の高騰、サプライチェーンの混乱やインフレ圧力の影響を受ける中、ENVI案は非現実的なスケジュールを設定し、新たに過度な規制による負担を産業界に課すものだと批判。同連盟はENVI案ではCBAM導入に伴う無償排出枠の削減が「早急である」ことや、輸出製品について十分考慮されていないと指摘し、本会議での採決でこうした「欠点」が修正されることを要望した。

自動車関連団体などは再生可能エネルギー燃料活用などを訴える

乗用車などのCO2排出基準に係る規則案については、欧州自動車部品工業会(CLEPA)は5月31日、100以上の自動車、工学およびエネルギー関連団体・企業とともに、欧州議会と加盟国に対して電動化以外の技術や再生可能エネルギー燃料の活用を訴える書簡を送った(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。CLEPAらは電動化には新車以外の車両からの排出削減への対応、充電インフラの急速な整備の必要性、電力価格の安定化といった課題が伴うと指摘。そこで「セーフティーネット」として持続可能な燃料の活用に言及し、任意の認証制度が既に設計されており、車両のライフサイクル全体へのアプローチが可能である再エネ燃料の活用が道路輸送部門での投資を呼び込むことにつながると主張した。このようにさまざまな技術や燃料の活用が許容されれば、自動車関連業界の競争力や雇用を維持し、利用者のニーズに応えられるとした。

(注)ジェトロ調査レポート「『欧州グリーン・ディール』の最新動向(全4回報告)」(2021年12月)も参照。

(滝澤祥子)

(EU)

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