欧州委、加盟国が短期的に実施し得るエネルギー市場への介入案を発表

(EU、ロシア)

ブリュッセル発

2022年05月24日

欧州委員会は5月18日、短期的なエネルギー市場介入と長期的なエネルギー市場設計の改善に関する政策文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表した。同日に発表された「リパワーEU」(2022年5月20日記事参照)はロシア産化石燃料依存からの脱却に関するものだが、この政策文書では欧州委と加盟国によるエネルギー価格への対応策に、より焦点を当てている。2021年夏以降、高騰するエネルギー価格を巡っては、欧州委は既に加盟国が実施し得る対応策(2021年10月14日記事参照2022年3月11日記事参照3月24日記事参照)を発表している。ロシアによるウクライナ侵攻の影響によって欧州のエネルギー価格はさらに高騰しており、ロシア産天然ガスの段階的な輸入削減により、ガス価格は引き続き高い水準を維持するとみられる。また、今後数週間から数カ月の間に、ロシアからEUへのガス供給に混乱が生じる可能性もあるとして、欧州委にはさらなる対応策の提案を求められていた(2022年3月14日記事参照)。今回の政策文書では、欧州委はこれまでの対応策を引き続き実施しつつ、加盟国に対して以下の対応策を新たに提案している。

ガス市場への介入策:EU側のガス需要を集約することで国際市場でのより安定的な輸入元からのガス供給を可能にする、加盟国間のガス輸入調整制度「EUエネルギープラットフォーム」の活用。そのほか、天然ガスの小売価格規制の延長、ガス価格の極端な変動時に取引を一時的に制限する「サーキットブレーカー制度」の導入、EU国家補助ルールに合致する範囲でのエネルギー会社などへ緊急の資金供給など。

電力市場への介入策:今回の危機により生じている卸売電力価格と発電費用の高い水準の差額(偶発利益)の消費者保護への活用の延長、送電線の混雑料金収入の増加分の消費者保護への活用、一般家庭だけでなく中小企業への小売価格規制の適用拡大、EU国家補助ルールに合致する範囲での発電用ガスの費用への一時的な補助金の提供など。

さらに、ロシアからの天然ガスの供給停止などの混乱が発生した場合には、ガス安定供給規則外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに基づき緊急時に加盟国間でガス供給を融通する「結束メカニズム」などがあるとしている。ただし、同メカニズムは1つの加盟国の緊急事態に備えたもので、複数の加盟国が同時に緊急事態に陥ることを想定していないとして、欧州委はこうした事態に備えた共通原則の設定を提案している。また、緊急事態においては、消費者向けの天然ガス価格の上限設定といった管理価格の導入も必要になる可能性があると指摘している。

欧州委は長期的な施策として、現行のEU電力市場の設計に関して、消費者保護、生産量が変動する再生可能エネルギーの供給量の増加およびより分散化した生産体制への対応、欧州グリーン・ディールの達成への貢献などの観点から、法改正も視野に改革案を検討するとした。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア)

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