欧州委、クリーン水素の大規模展開に向けて、電解槽の製造業者と共同宣言に署名

(EU)

ブリュッセル発

2022年05月09日

欧州委員会は5月5日、再生可能エネルギーを用いた水素(以下、再生可能な水素)の生産に必要な電解槽の製造業者など20社の最高経営責任者(CEO)とともに、EU域内の電解槽の製造能力の拡大に向けた共同宣言外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますに署名したと発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。この共同宣言では、製造業者は2025年までに欧州での電解槽の製造能力を現在の約10倍となる年間17.5ギガワット(GW)に引き上げ、2030年までには製造能力をさらに高めることを目標とし、欧州委も目標の実現に向けた多角的な支援を実施するとした。

欧州委はこれまでも、2050年までの気候中立の達成に向けた欧州グリーン・ディールに基づき、再生可能な水素の域内生産量の拡大に向けて、官民協働のためのプラットフォームである「欧州クリーン水素アライアンス」の立ち上げや、天然ガスから水素への移行に向けた法整備(2021年12月16日記事参照)などを実施していた。その後、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧州委はロシア産エネルギーからの脱却計画「リパワーEU」の概要(2022年3月11日記事参照)を発表。エネルギーの安全保障の観点から、ロシア産の天然ガスの一部を再生可能な水素に切り替える必要があるとして、2030年までの再生可能水素の域内生産目標を、欧州グリーン・ディールにおいて設定された年間560万トンから、約2倍となる年間約1,000万トンに引き上げるとしている。

共同宣言では、1,000万トンという域内生産目標を達成するためには、90~100GW相当の電解槽を設置する必要があるとし、実現のためには(1)水素の大規模展開を支援するための規制枠組みのさらなる整備、(2)大規模投資、(3)統合されたサプライチェーンの構築と部品や原材料の供給上の課題に取り組むことが重要、と指摘している。

そこで、共同宣言において、欧州委と製造業はこうした課題に対処するために、次の点で合意した。欧州委は今後、再生可能な水素の生産と水素市場の拡大に向けた規制枠組みの整備、水素事業の迅速な認可を可能にする法案や勧告の発表、加盟国から水素事業に関する国家補助の申請があった場合の優先的な審査、電解槽の製造事業などへの融資に向けた欧州投資銀行(EIB)との協議などを実施する。一方で製造業者は、気候変動目標やリパワーEUの目標に完全に沿った事業計画のみを進める。また、欧州委と製造業者は、重要な原材料の依存の問題に協力して取り組む。

(吉沼啓介)

(EU)

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