インフレ率上昇の抑制へ、食品を中心とした主要品目の輸入関税を一時撤廃
(メキシコ)
メキシコ発
2022年05月19日
メキシコ連邦政府は5月16日、インフレ率上昇抑制策(PACIC)の一環として、食肉、卵、野菜などの食品を中心とした品目につき、5月17日から1年間、輸入関税を撤廃することを官報公示した。対象品目には、PACICで販売価格の据え置きを民間企業に求めた24品目(2022年5月10日記事参照)に加え、原料となる魚や小麦粉、生きた家畜(牛、豚、羊・ヤギ、鶏)などが含まれる。対象品目数は、HSコード8桁ベースで食品および日用品が66品目、生きた家畜が6品目で合計72品目に上る。
官報で公布された政令の前文では、メキシコ国立地理情報統計院(INEGI)が発表した4月前半のインフレ率(前年同期比)が7.72%に達し、3月後半と比べて0.16ポイント上昇したことに触れ、インフレ率の上昇が、2022年の最低賃金の引き上げ(前年比22%)による国民の購買力を強化する効果を低下させているため、対策が急務と説明している。
しかし、対象品目の多くについて最大の輸入相手国が米国であることから、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)により、既に関税が無税になっているため、本対策の効果は限定的との見方もある。例えば、鶏肉の一般輸入関税は75%だが、枝肉(冷蔵、冷凍)も、分割した肉(冷蔵、冷凍)も、米国からの輸入が100%を占めており、USMCAにより無税となる。リンゴについても、一般輸入関税は20%だが、2020年、2021年ともに米国からの輸入が98%と最も多く、ジャガイモや小麦粉も米国からの輸入が大半を占める(全て輸入金額ベース、メキシコ経済省貿易統計)。
日本企業にとっては牛肉の輸出に追い風
一方で、一般輸入関税が撤廃されることによって、輸入相手国の多角化が進むとみられる品目もある。特に日本からの輸入にとって有利となるのは牛肉だ。牛肉の一般輸入関税は、冷蔵が20%、冷凍が25%のところ、日本から輸入される牛肉にはTPP11(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定:CPTPP)に基づき輸入関税が10~12.5%に低減されるが、今回の措置により数量に関係なく無税で輸入できるようになった。
全国スーパーマーケット・百貨店協会(ANTAD)会長のビセンテ・ジャニェス氏は、対象品目の輸入関税撤廃は企業が販売価格を抑えるのに役立ち、「輸入手続きの簡素化につながり、企業にとってコスト削減となる」とコメントしている。また、全国レストラン・調理食品産業会議所(CANIRAC)のヘルマン・ゴンサレス会頭も「市場の独占を壊し、競争を促進し、供給能力を強化するものは歓迎だ」と政府の対策を評価した。一方で、バセ・ファイナンシャルグループの経済アナリストであるガブリエラ・シラー氏は、輸入関税撤廃の対象品目は消費者物価指数の11%程度を占めるにすぎないとし、インフレ率上昇を抑制する大きな効果は見込めないと指摘している(主要各紙5月17日)。
(松本杏奈)
(メキシコ)
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