連邦政府がインフレ率上昇抑制策を発表、民間部門の協力を求める

(メキシコ)

メキシコ発

2022年05月10日

メキシコのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は5月4日、早朝記者会見においてインフレ率上昇抑制策(PACIC)を発表した(添付資料参照)。物価上昇を防ぐ目的で民間部門と協力し、食品を中心とした主要24品目の価格上昇を抑制するもので、企業の参加は任意。AMLO大統領は、同会見において「価格統制ではなく、(民間部門との)合意」で、「適正な価格を保証するための同盟だ」と説明している。

2021年4月以降、メキシコのインフレ上昇率(前年同月比)は高進を続けており、2021年11月以降は5カ月連続で7%を超え、2022年3月は中央銀行目標範囲(3%±1%)を大きく上回る7.45%だった。連邦政府は、ガソリン・ディーゼル価格を低く抑えるための生産サービス特別税(IEPS)を通じた補助政策(注)を既に実施しているが、AMLO大統領は「インフレ上昇は、経済的に困難な立場にある人々に最も影響を与える」ため、食品価格の上昇を防ぐ対策が急務とした。財政を圧迫することなく物価上昇を抑える方法として、メキシコでは1980年代末にインフレ抑制のため同様の政策がとられたことがあり、現政権もそれを踏襲して民間企業に協力を求めたかたちだ。同早朝記者会見には、大手スーパーマーケットチェーン、ウォルマート・メキシコ副社長のアルベルト・マヌエル・セプルベダ・コシオ氏、製パン最大手のグルーポ・ビンボ副社長のリリアナ・メヒア・コロナ氏が登壇し、連邦政府への協力を表明した。その他、精肉業のスカルネ、鶏卵・精肉業のバチョコ、乳製品メーカーのララ、アルプーラ、衛生用品メーカーのキンバリー・クラーク・メキシコ、大手スーパーマーケットチェーンのチェドラウイ、ラ・コメルなど23社の企業幹部も出席した。また、デ・ラ・オ大蔵公債相は、通信事業大手テルメックスとテルセルも2022年内に通信料の値上げは行わないことで合意したと発表している。

AMLO大統領は同記者会見において、「(本対策によって)問題のすべてを解決することはできないが、重要な部分を解決できる」とし、価格抑制を行う期間は6カ月間とする予定であることを明らかにした。

政策を否定しないものの効果は限定的との見方が多数

メキシコ中銀のジョナサン・ヒース理事は5月3日、連邦政府の発表に先立ち、自身のツイッターで、「価格統制の効果は短期的なもの」になるとの見方を示した。メキシコ工業会議所連合会(CONCAMIN)のホセ・アブガベル会長は「本政策によりインフレ率が12%に達することは避けられる」とした一方で、メキシコには輸入品が多く存在するため効果が限定的になるとコメントした(現地紙「レフォルマ」5月2日)。民間シンクタンクのメキシコ・コモ・バモスは5月2日にインフレ抑制のための提言書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公開し、連邦政府は財政出動を伴う中小企業支援策などを実施し投資意欲を回復させるべきとしたうえで、一定の品目の値上がりを抑制しても、大企業であれば他品目の価格にコストを反映することが可能で、インフレ抑制にはつながらないと指摘した。

(注)燃料販売におけるIEPSの課税を、原油価格の上昇に応じて減額、あるいは免除し、全額免除しても燃料価格を抑えられない場合は課税額をマイナスとし、実質的な補助金を支給して価格を抑える措置。

(松本杏奈)

(メキシコ)

ビジネス短信 a437f25447fbe263