最高裁が野党議員団による電力産業法改正の違憲提訴を却下

(メキシコ)

メキシコ発

2022年04月11日

メキシコの最高裁判所(SCJN)は4月7日、2021年3月9日付官報公布電力産業法(LIE)改正(2021年2月3日記事2月25日記事3月4日記事3月11日記事参照)に対する、野党議員団の違憲提訴を却下した。野党議員団が違憲だと主張する多くの条文について、11人の判事のうち7人が違憲と判断したが、法律の違憲性を確定するためには11人中8人が賛成する必要があるため、違憲確定には及ばなかった。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(AMLO)大統領は4月8日の早朝記者会見において、最高裁の決定は、歴史的かつ愛国的なもので、民衆や国家に利するものだと高く評価した。

他方、多くの法律の専門家によると、今回の決定は、必ずしもLIE改正が合憲だと最高裁が判断したものではない。多くの企業が提訴したアンパロ(注)により、LIE改正は適用差し止めとなっているが、今後、アンパロ提訴した企業以外には、法改正の効果が及ぶことになる。ただし、各個々のアンパロにおいて合憲性が示されたわけではないため、今後、初等地区裁判所、高等管区裁判所、あるいは必要に応じて最高裁において合憲性の判断が下されることになる。今回、多くの条文について過半数(6人、あるいは7人)の判事が違憲との見解を示したため、地区裁判所や高等管区裁判所の判事が同見解を参考にする可能性は高い。また、案件が最高裁に持ち込まれた場合でも、アンパロの場合は単純過半数(6人の賛成)で違憲と判断されるため、提訴した企業が勝訴する可能性は低くない。また、今回の最高裁による違憲性の否認は、野党議員の違憲提訴に対するもので、連邦経済競争委員会(COFECE)やコリマ州政府が提出している憲法訴訟に対する最高裁の判断は、これから行われることになる(現地主要各紙4月8日)。

政府は自家発電事業許認可の見直しに動く

LIEの改正は、現在国会で審議されている電力再国有化に向けた憲法改正案(2021年10月4日記事参照)と同様、国家電力管理センター(CENACE)による送電指示などで電力庁(CFE)の発電所を優先し、民間発電事業者を不利な立場に置く規定が含まれているが、全ての民間事業者に対する許認可をいったん取り消すといった規定はない。しかし、法律を順守していない自家発電事業に対するエネルギー規制委員会(CRE)による許認可取り消しや、CFEが独立発電事業者(IPP)との間で締結している電力調達契約の合法性と収益性の精査が盛り込まれている。

大統領府は4月8日付でプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを出し、今後、自家発電事業の許認可を精査し、必要に応じて許認可を取り消す考えを明らかにした。現時点で存在する234の自家発電事業許認可のうち110件が違法だとし、7万7,000の顧客(パートナー)に電力が違法に売買されているとしている。また、IPP事業についても合法性と国家の収益性を精査し、必要に応じて契約内容を変更、あるいは早期に終了させるとしている。

(注)行政府や立法府、司法府などの行為により、憲法が保障する国民や企業の基本的権利が侵害された場合、当該行為の差し止めと無効を求める裁判制度。

(中畑貴雄)

(メキシコ)

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