ドイツで天然ガス貯蔵施設の最低貯蔵率を義務付ける法改正進む

(ドイツ、ウクライナ、ロシア)

デュッセルドルフ発

2022年04月04日

ドイツ連邦議会(下院)は3月25日、エネルギー事業法の改正法案(通称「ガス貯蔵法」)を可決外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。経済・気候保護省も同日、連邦議会での可決と同法案の内容について発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。ウクライナ情勢やドイツのロシア産天然ガスへの高い依存度(2022年3月22日記事参照)を背景に、ドイツ国内の天然ガス貯蔵施設運営者に対し、満たすべき貯蔵率の義務を課す。改正法案では、2022年は以下のスケジュールでの貯蔵率を達成することとしている。

  • 2022年10月1日時点:80%
  • 2022年11月1日時点:90%
  • 2023年2月1日時点:40%

改正法案は今夏を天然ガスの充填(じゅうてん)時期に当てることを念頭に、4月8日に連邦参議院(上院)での承認・成立、5月1日施行を目指す。

現在、ドイツの天然ガス市場は大幅に自由化されており、所管省庁がガス貯蔵施設の貯蔵率へ影響を与える手段がない状況だ。ドイツの天然ガス貯蔵可能用量は240億立方メートルと中・西欧で最も大きい。多くの人が暖房の利用を開始する時期の前に十分な貯蔵量がある場合、平均的な寒さの冬であれば2~3カ月間は国内で必要な天然ガスの供給が可能だ。一方、2021~2022年冬の貯蔵率は過去15年間で最低だった。特にロシアのガスプロムのドイツ子会社が持つ貯蔵施設の貯蔵率が低かった。

実際の貯蔵率の達成義務は、ドイツ国内の全てのガスパイプライン事業者11社が2021年6月に共同で設立した法人トレーディング・ハブ・ヨーロッパ(THE)が負う。貯蔵率達成は3つの段階に分けて行われる。(1)まずはガスパイプライン事業者が貯蔵施設にガスを充填する。同時に、THEがガス貯蔵施設の貯蔵量の公共入札を行って、貯蔵率の向上を後押しする、(2)貯蔵率達成が危ぶまれる場合、THEが追加で公共入札を行って貯蔵率に足りない分のガス貯蔵量を埋められるようにして、更なる貯蔵を促す、(3)それでも貯蔵率に達しない場合、THEが天然ガスを直接購入し貯蔵施設に充填する。なお、事業者が貯蔵設備の事前予約した貯蔵容量の全てを使用しない場合、その不使用分について、貯蔵率達成に必要な範囲でTHEによるガス充填を可能とする。

連邦エネルギー・水道事業連合会(BDEW)のケルスティン・アンドレエ事務局長は3月25日に発表したプレスリリースで、同改正法案をおおむね歓迎する一方、部分的とはいえ政府の大規模な市場介入がある点は問題視する立場を示した。さらに、ドイツの国レベルの規制と、欧州委員会が3月8日に発表した「リパワーEU」計画(2022年3月11日記事参照)などのEUレベルの規制との整合性を持たせることが重要だと指摘した。

なお、経済・気候保護省は2022年12月15日までに貯蔵率目標の実施状況について、2023年4月1日までに規制の影響や効果を評価し、報告書を連邦議会に提出する予定。また、上記の貯蔵率達成義務は2025年3月31日まで有効。

(ベアナデット・マイヤー、作山直樹)

(ドイツ、ウクライナ、ロシア)

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