米国際貿易裁判所、USTRに対中追加関税の根拠説明を命令

(米国、中国)

ニューヨーク発

2022年04月07日

米国の国際貿易裁判所(CIT)は4月1日、トランプ前政権時代に米通商代表部(USTR)が1974年通商法301条に基づいて発動した、対中追加関税(301条関税)の一部に関し、正当化の根拠を再考するか、追加説明を行うよう命令を下した。

本件は、301条関税が課された中国原産品を輸入する米国内の事業者が、米政府を相手取って提訴した案件となる。提訴の要点は、トランプ前政権により2018年7月以降4回に分けて発動された301条関税のうち、後半2回(いわゆるリスト3とリスト4A、注1)は無効とするもの。2020年9月以降、同様の訴訟が約3,600件も提起されていた中、CITは2021年2月に、関連する一連の訴訟を3人の裁判官で構成するパネルの判断に付すとの判断を下し、審理が進められてきた。原告として訴訟に参加している事業者数は現在、6,500を超えるとされる。CITは2021年7月にはいったん、税関国境保護局(CBP)に対して、審理完了までリスト3、4Aに該当する301条関税の清算を停止する手続きを命じていた(2021年7月12日記事参照)。しかし、米政府側が2021年9月に、最終的に敗訴した場合は徴収した関税を還付するとの姿勢に転じたため、清算自体は再開している(注2)。事業者からの膨大な清算停止の申請を処理しきれないことが、米政府の姿勢転換の理由とされる。

CITは4月1日の命令文で、リスト3、リスト4Aの301条関税について、当時のパブリックコメントなどで提起された反対や賛同の意見、米国経済への懸念、取り得る代替手段などを勘案したうえで、USTRがどう最終決定に至ったのかを説明しきれていないとし、6月30日までに301条関税を正当化する根拠を再考するか、追加説明を行うよう求めた。一方、中国政府からの報復関税は米政府によるリスト3、リスト4Aの発動理由となり得ないとする、301条関税の違法性に関する原告側の主張について、CITは「説得力がない」とした(注3)。通商法に詳しい米国法律事務所によると、CITが原告側の中核的な主張に反する判断を行ったため、勝訴は難しい、との見方を示している。ただし、CITでの最終審理が終了したとしても、敗訴側が連邦控訴裁に上訴し、最終的には最高裁までもつれ込む可能性があるため、本件が決着するまでの道のりはまだ長いとみられる。

(注1)2018年9月に発動した輸入額約2,000億ドル相当の5,745品目に対する追加関税(いわゆるリスト3)と、2019年9月発動の輸入額約1,100億ドル相当の3,243品目(いわゆるリスト4A)の2回。リスト3は当初10%だった追加関税率が2019年5月に25%へ引き上げられ、リスト4Aは当初15%だった追加関税率が2020年2月に7.5%へ引き下げられ、いずれもそのまま現在に至っている。

(注2)米政府が敗訴した場合に還付対象となる関税は、2021年7月6日時点で清算が完了していない関税および、それ以降に徴収された全ての関税となる。

(注3)1974年通商法301条では、USTRが追加関税措置を変更できるのは、調査開始から1年以内に最初の追加関税発動の原因(今回の場合、中国による知的財産権侵害など)が変化した場合などに限ると規定されている。これをもって原告側は、調査開始から1年以上経過した後に、USTRが(リスト1、2の301条関税に対する)中国の報復関税を理由にリスト3、4Aの301条関税を発動したことは違法、と主張している。

(磯部真一)

(米国、中国)

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