米国際貿易裁判所、税関に一部の対中追加関税の清算停止を命令

(米国、中国)

ニューヨーク発

2021年07月12日

米国の国際貿易裁判所(CIT)は7月6日、トランプ前政権時代に1974年通商法(以下、通商法)301条に基づき発動した対中追加関税の一部に関し、米政府に対して未処理の関税の清算を停止するよう予備的差止命令PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を出した。

本件は、301条により追加関税が課された中国原産品を輸入する米国内の事業者が米政府を相手取って提訴した案件となる。提訴の要点は、トランプ前政権により2018年7月以降4回に分けて発動された追加関税のうち、後半2回(いわゆるリスト3とリスト4A、注)は無効との点にある。通商法は、米国通商代表部(USTR)に対して、貿易相手国による不公正な貿易慣行に関する調査開始から12カ月以内に、対抗措置を決定することを求めている。ただし、対抗措置を発動するに至った要因(今回の場合、中国による知財侵害など)が変化した場合など一定の要件を満たせば、12カ月を過ぎた後でも対抗措置を変更することを認めている。後半2回の対中追加関税発動は、調査が開始された2017年8月から12カ月を過ぎていたため、USTRは中国が報復関税を発動したことを理由に、後半2回の追加関税を正当化していた。これに対して、原告側の事業者らは、中国による報復関税は、USTRが対抗措置を発動するに至った要因の変化には該当せず、後半2回の追加関税は無効として、審理が完了するまで、米政府に関税の清算を停止するよう要求していた。

2020年9月以降、同様の訴訟が約3,600件も提起されていた中、CITは2021年2月に、関連する訴訟を3人の裁判官で構成するパネルの判断に付すとの判断を下し、審理が進められていた。トランプ前政権は、後半2回の追加関税は合法だとの主張を譲らなかった。バイデン政権もその考えを維持しており、これら訴訟により政権による対中交渉の努力を損なうべきでないとし、CITに訴訟を棄却すべきと主張していた(通商専門誌「インサイドUSトレード」6月2日)。

CITは今回、2対1で、税関国境保護局(CBP)に対して命令から14日以内に、訴訟に参加している事業者の審理完了までの間、リスト3とリスト4Aに該当する関税の清算停止を申請するための窓口の設置を命じた。その上で、受理した案件については、14日以内に関税の返還を保証するか、それができない場合は清算を停止するよう命じている。また、命令から28日間に限っては、該当する全ての関税の清算停止を命じている。

(注)2018年9月に発動した輸入額約2,000億ドル相当の5,745品目に対する追加関税(いわゆるリスト3)と、2019年9月発動の輸入額約1,100億ドル相当の3,243品目(いわゆるリスト4A)の2回。リスト3は当初10%だった追加関税率が2019年5月に25%へ引き上げられ、リスト4Aは当初15%だった追加関税率が2020年2月に7.5%へ引き下げられ、いずれもそのまま現在に至っている。

(磯部真一)

(米国、中国)

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