米USTR、データ規制や強制労働を問題視、2022年外国貿易障壁報告書(中国編)

(米国、中国)

ニューヨーク発

2022年04月06日

米国通商代表部(USTR)が3月31日に公表した2022年版「外国貿易障壁報告書(NTE)」(2022年4月4日記事参照)では、中国に関する記述に39ページを充て、対象国・地域の中ではEU(48ページ)に次いで記述量が多い国・地域となった。報告対象分野として、NTEで設定した全14分野(注1)に加え、貿易協定と国家主導の非市場的貿易体制も取り上げた。

USTRは、2021年末に期限を迎えた第1段階の米中経済・貿易協定(いわゆる第1段階の合意、2020年2月21日記事参照)について、食品・農水産品の非関税障壁の削減で一定の成果があったとした一方、農産品関連のバイオ技術などに関わる約束が果たされていないと指摘した(注2)。その上で、同協定で中国が約束した事項は、同国がもともと自国の利益のために計画または追求していたもので、同協定は中国の国家主導の非市場的貿易体制の根本的な変化をもたらしていないと評価した。

国家主導の非市場的貿易体制については、「中国製造2025」や「第14次5カ年(2021~2025年)規画」(2021年3月10日記事参照)などを挙げ、中国企業を優遇する産業政策が続いていると批判した。また、第1段階の合意で中国が約束した強制的な技術移転の禁止の履行状況を今後も継続的に監視すると記述した。

貿易の技術的障壁・衛生植物検疫(SPS)措置では、2021年4月に公布された「中国輸入食品海外製造企業登録管理規定」(2021年5月24日記事参照)と「中国輸出入食品安全管理弁法」(2021年5月24日記事参照)を新たな障壁として挙げた。これらの規定で定めた食品製造業者向け登録要件などの不透明な措置が貿易業者や輸出国の規制当局に不当な負担を課していると問題視した。

デジタル貿易と電子商取引に関わる障壁では、拡張的なデータ規制が続いていると指摘した。2021年9月に施行されたデータセキュリティー法(2021年6月18日記事参照)や同年11月施行の個人情報保護法(2021年8月26日記事参照)、その他の関連法・規制が企業活動の基盤となる情報の越境移転を制限していると指摘。広範で漠然と定義された「重要データ」を収集する企業にデータの中国国内保存などを課していると懸念を示した(注3)。

労働分野の障壁では、中国新疆ウイグル自治区での強制労働問題を報告した。米国の対応として、米国税関国境保護局(CBP)による同自治区を対象とした違反商品保留命令(WRO、2021年1月15日記事参照)や連邦政府による企業向け勧告の発出(2021年7月14日記事参照)、2021年末に成立した「ウイグル強制労働防止法」(2021年12月24日記事参照)を列挙した。

(注1)輸入政策、貿易の技術的障壁、衛生植物検疫(SPS)措置、政府調達、知的財産保護、サービス分野の障壁、デジタル貿易および電子商取引、投資障壁、補助金、非競争的慣行、国有企業、労働、環境、その他の障壁。

(注2)中国は第1段階の合意で、農業関連バイオ技術を使用した製品に対する審査について、透明で効率的なシステムでの実施などを約束した。NTEでUSTRは、審査手続きでの情報開示が依然不十分なことや、審査手続きにかかる時間が短縮されていないことを問題視している。

(注3)中国の安全保障貿易管理に関わる法制度については、ジェトロのウェブサイト「特集:新たな局面を迎える安全保障貿易管理」の「専門家による政策解説【中国】」を参照。

(甲斐野裕之)

(米国、中国)

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