米証券取引委、上場企業に気候変動リスクとGHG排出量の開示求める規則案を公表

(米国)

ニューヨーク発

2022年03月23日

米証券取引委員会(SEC)は3月21日、米国で上場する企業に対して、気候変動に関連するリスクと温室効果ガス(GHG)排出量などの開示を求める規則案外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表した。同規則案は今後60日間、広く一般からの意見を公募し、2022年内の取りまとめを目指す。EUや英国などで、企業における気候変動リスクの開示ルール整備が進む中(2021年4月23日記事11月5日記事参照)、米国において同様の開示ルールがなかったことに対応した動きとなる。

同規則案では、上場企業に対して、気候変動リスクが及ぼす事業活動や財務への影響や同リスクに対する経営管理体制、GHG削減に向けた計画などの開示を求めている。GHG排出量の開示に関しては、一般にスコープ1と呼ばれる自社の排出量に加え、スコープ2と呼ばれる電力やそのほかのエネルギーの使用による間接的な排出量も含めた開示を求めている。ただし、スコープ3と呼ばれる取引先など自社のサプライチェーン全体の排出量に関しては、それが企業にとって重要と判断する場合や企業が排出削減量目標を設定している場合に開示対象となるとした。なお、中小企業に関しては、スコープ3開示の対象外とするとしている。

規則案は2023年度から段階的に適用するとしており、2022年内に取りまとめが行われる見込みだ。しかし、環境規制に否定的な共和党などから批判が相次いでおり、上院銀行委員会に所属する共和党パトリック・トゥーミー議員(ロードアイランド州)が「SECの使命を逸脱している」と非難したほか(ロイター3月21日)、米国商工会議所は声明文で、規則案はほとんど重要でない情報を企業に開示させるとして反対する姿勢を示しており、当初案どおりにまとまるかは不透明だ。欧州のNGOのニュー・クライメート・インスティテュート(NCI)によると、グーグルやアマゾン、ソニーなど主要なグローバル企業25社のネットゼロ目標では、13社が具体的な削減策の詳細を示していないことに加え、残りの12社も公表済みの削減策だけでは2019年のサプライチェーン全体からの削減量は平均で約40%にとどまるとして、サプライチェーン全体での対応の遅れを指摘している。こうした状況を踏まえ、環境団体は、スコープ3における排出量の重要性の判断を企業に任せた場合、「企業は自身の排出量の大部分を開示から除外することができてしまう」と今回の規則案を批判している(ポリティコ3月21日)。2030年に2005年比でGHG排出量50~52%削減という政府目標も考慮に入れながら、規制反対派と推進派の間で、SECには難しい調整が今後求められそうだ。

(宮野慶太)

(米国)

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