欧州委のデューディリジェンス指令案、ドイツ産業界も懸念を表明

(ドイツ、EU)

ミュンヘン発

2022年03月02日

欧州委員会が2月23日に発表した企業持続可能性デューディリジェンス指令案(2022年2月28日記事参照)に対して、欧州レベルの産業団体のみならず(2022年2月28日記事参照)、ドイツの主要経済団体も同日、一斉に懸念を示した。

ドイツ産業連盟(BDI)は、「指令案は企業に過度な負担を強いる」と題した文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。BDIは、同指令案について、人権・環境に関するデューディリジェンス(DD)の射程がサプライチェーン全体に及ぶのは現実的ではないとして、直接的な取引先に限定すべきとした。また指令案では、継続的なビジネス関係を持つ取引先の企業活動による損害についても、指令案の対象企業が損害賠償責任を負うとしているのに対し、BDIは「企業は自社の活動のみに責任を負うべき」とした。また、指令案の直接の対象企業とはなっていないものの、中小企業にも間接的な負担がかかることが想定される点について、中小企業は人員が限られ、サプライチェーンへの影響力も限定的なことから、中小企業への配慮を求めた。

ドイツ商工会議所連合会(DIHK)は、「企業への過度な負担を警告する」との声明外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを発表した。サプライチェーンにおける人権・環境への影響の管理体制確立、EUレベルでの共通の枠組みづくりという趣旨には同意しつつも、BDIと同様に懸念を示した。特に、DIHKは「複雑なサプライチェーンでは世界中に数百、数千の取引先が存在することも多い」とし、一方で、ドイツ企業は通常は直接的な取引先に関する情報しか把握していないこと、EU指令案によるサプライチェーン内の包括的な報告義務が、回りまわってドイツ国内の多くの中小企業にも強いられる可能性がある点などを指摘した。

ドイツ機械工業連盟(VDMA)は、「指令案は非建設的」とする文書外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを公表、中堅企業がサプライチェーンの取引先や顧客に影響を及ぼせるような力はなく、結果として、リスクがある市場から撤退するしか選択肢がなくなるとした。具体的な修正案として、VDMAは指令の射程を企業が管理できる範囲、すなわち自社、その子会社、および直接の取引先に限定すべきとした。

ドイツ化学工業会(VCI)と連邦化学使用者連盟(BAVC)は連名で、「指令案は的外れ」とするプレス発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを行った。他団体と同様の指摘をした上で、具体的な提案として、たとえば、化学業界では企業の指標となる持続可能なサプライチェーン基準の検討を開始しており、業界ごとに定めるDD基準を認めるべきとした。

ドイツ国内では2021年6月、「サプライチェーンにおける企業のデューディリジェンスに関する法律」が成立し、2023年1月から施行される(2021年6月30日記事参照)。EUの指令案が成立した場合、同指令に適合させる改正が行われることになる。なお、2021年11月に発表されたドイツ新政権の連立協定書(2021年11月26日記事参照)には、EUのDD指令に関して、「国連の『ビジネスと人権に関する指導原則』に基づいており、また中小企業に過度な負担を強いない場合は、支持する」と記載されている。

(高塚一)

(ドイツ、EU)

ビジネス短信 a766452171abf3ae