欧州委、成長投資を維持しつつ、2023年からの財政再建を加盟国に求める

(EU)

ブリュッセル発

2022年03月04日

欧州委員会は3月2日、2023年の財政政策ガイダンスに関する政策文書PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)を発表(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)した。EU経済は新型コロナウイルス感染拡大によるマイナス成長から順調に回復していることから、新型コロナウイルス対策に伴う財政出動により大幅に増加した政府債務残高(2021年にはEU全体でGDP比92%)に対処すべく、今後も経済成長に向けた公共投資を維持しつつ、政府債務残高のGDP比が高い加盟国に対しては、2023年から財政再建に向けて徐々にかじを切るべきだとした。EUでは、財政規律の確保のための「安定・成長協定(SGP)」において、各加盟国は毎年4月末までに中期財政目標を含む「安定化プログラム(ユーロ圏)/収斂(しゅうれん)プログラム(非ユーロ圏)」を策定する必要がある。今回の政策文書は、各加盟国によるプログラムの策定のための指針となるものだ。

欧州委の冬季経済予測(2022年2月16日記事参照)によると、2021年第3四半期にはEU経済は新型コロナウイルス感染拡大以前の水準に戻り、2022年の実質GDP成長率は4.0%、2023年は2.8%と好調に推移するとしている。欧州委は、SGPにおける財政規律要件の適用の一時停止(2021年3月4日記事参照)や復興レジリエンス・ファシリティ(RRF)といったEUレベルの経済支援などを通じた加盟国間の財政政策の調整が、EU経済の回復に貢献したと評価。加盟国間の財政政策の調整を引き続き確保する必要があるとした。

一方で、こうした経済回復を受け、2023年には財政規律要件の適用を再開する予定であることから、2023年からは積極的な財政出動から段階的な財政再建に向けた政策へと修正する必要があるとした。特に、政府債務残高GDP比が100%を超える6加盟国を中心に、債務残高が高い加盟国は財政支出を徐々に減らすべきだとした。ただし、欧州グリーン・ディールや欧州デジタル化に向けた成長投資は重視すべきとし、RRFの3分の2の補助金は2023年末までに執行されることから、中期的にはEU予算だけでなく、加盟国予算を財源にした積極的な投資が必要だとした。また、債務残高が低い加盟国については、グリーンとデジタルの成長投資をさらに強化すべきとした。

ロシアへの制裁などによるEU経済への悪影響は今後検討

今回のガイダンスは、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が開始される前に発表された冬季経済予測を基に策定されたものだ。欧州委のバルディス・ドムブロフスキス執行副委員長(経済総括、通商担当)は、EU経済のファンダメンタルズは堅調であるとしながらも、史上最大規模としているEUの対ロシア制裁(2022年3月2日記事参照)はEU経済にも悪影響を及ぼすとし、高いインフレ率やエネルギー価格の高騰などもあり、EUの経済成長率を押し下げるだろうとの見方を示した。このような不確実要素を考慮し、2022年春の段階で、ガイダンスを改定する可能性があるとし、2023年の財政規律要件の適用再開の可否も再検討するとした。また、政府債務残高GDP比が60%以上の加盟国に対して是正を求める過剰赤字手続きについては発動しないとした。

(吉沼啓介)

(EU)

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