EU首脳、対ロシア制裁やエネルギー政策で大きな進展を示せず

(EU、ロシア、ウクライナ、米国)

ブリュッセル発

2022年03月29日

欧州理事会(EU首脳会議)が3月24~25日、ブリュッセルで開催された。今回の欧州理事会では、ロシアによるウクライナ侵攻とそれに伴い価格高騰が続くエネルギー問題を中心に、安全保障と防衛、経済、新型コロナウイルスなどについて協議が行われた。24日には、米国のジョー・バイデン大統領も参加し、ウクライナ情勢への対応が協議されたが、欧州理事会の総括PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)では、新たな制裁に関する発表はなく、既存の制裁の抜け穴の防止策を進めると言及するにとどまった。抜け穴防止策については、EU域外国に対してEUの制裁に同調するよう呼び掛けたものの、具体策は盛り込まれなかった。

最大の焦点となったのは、エネルギー問題だ。エネルギー価格の高騰により、市民生活やビジネスに悪影響が出ていることから、各加盟国は緊急の対策を迫られている。欧州委員会は既に各加盟国が取り得る施策(2022年3月11日記事参照)を提示しているが、スペインなどは、ガス価格と電気価格のデカップリング(切り離し)を求めている。EUの現行の卸売電力市場においては、発電方法にかかわらず、実質的にガス価格に連動した価格で電力が取引されており、欧州委は現在の電力価格の高騰の原因は、ガス市場にあるとしている。欧州理事会は今回、デカップリングなど今後の方向性については示さず、欧州委が最終手段にすべきとしている価格上限規制などの規制措置を含めた選択肢を検討し、電力価格高騰への対応策を提案するよう、欧州委に求めるにとどまった。

一方で、欧州委は、加盟国が提案する緊急の一時的措置のEU法との整合性について審査する用意があるとした。これを受け、スペインは、現行の卸売電力価格より低い、発電用ガスのベンチマーク価格を一時的に設定する予定だと発表している。欧州委のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は欧州理事会後の記者会見で、スペインとポルトガルは、エネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合が高い一方で、他の加盟国との電力の相互接続が非常に低いという特殊な状況にあることから、欧州理事会は、両国のエネルギー価格への対応において、特別な取り扱いを認めることで合意したと述べた。

欧州委が提案していたガスの共同調達(2022年3月24日記事参照)に関しては、欧州理事会は、欧州委に対して、実施の方向で緊急に作業を進めるよう求めた。フォン・デア・ライエン委員長は、世界のパイプライン経由のガス市場のうち75%が欧州市場で、EUは強大な購買力があることから、ガス調達においてEUの団体交渉が可能になることを歓迎するとした。ただし、総括では、ガスの共同調達への加盟国の参加は、あくまでも「自主的な(voluntary)」ものとしている。

このほか、EUの防衛能力の強化策として、加盟国の防衛費の大幅な増額で合意したベルサイユ宣言(2022年3月14日記事参照)を受け、欧州理事会は、迅速な配備が可能な5,000人規模のEU部隊の創設など、2030年までのEUの安全保障・防衛政策に関する行動計画を示す「戦略的コンパス」を承認した。

欧州理事会、ミシェル常任議長を再任

欧州理事会のシャルル・ミシェル常任議長は、2022年5月31日の任期終了を前に、再任された。2024年11月30日まで、2期目を務めることになる。

(吉沼啓介)

(EU、ロシア、ウクライナ、米国)

ビジネス短信 29ecdb9bc71d131c